2013年7月記
胚移植(ET)後、安静にすることが多いと思います。
ET直後も「○分間安静にしてください」と言われ、ベットの上でジッと時間が過ぎるのを待ち、
その後も妊娠判定まで、普段よりずっと活動性を落とし、安静にしている時間が増え、
ご主人さんも「それもオレがやってやる。あれもオレがやってやる」と気を使ってくれて。
もちろんどれもみんな切実に妊娠を願ってなわけですが。
でも、その「ET後の安静」、逆効果だとしたらどうしますか?
「安静にしてもしなくても同じ」ではなくて、「安静にするほうが妊娠率が悪い」としたら・・・。
そうなんです。最新の論文を見てみると、そういった報告が目に付きます。
ここでは、今年(2013年)に発表された医学論文を読んでみたいと思います。
(なお、本項の記載は2013年7月です)
まず1本目は、fertility and sterilityのこちら。
内容は?というと、「ET後10分間のベッド上安静 v.s. ET直後の安静無し」です。
要旨を箇条書きにします。
でした。
で、この原因としてこの著者の先生が推察するに、2つの理由を考えているようです。
とのことです。
で、「安静がダメ」という論文は、この論文単発なのか?というとそんなことはなく、いくつもあるようです。
今年(2013年)、「ET後の安静は悪」というreview article(総説論文)が載りました。それがこちら。
1.ET後に安静を推奨する根拠は何か?
- ET後安静を勧める根拠は、「動くことによりET胚が流れ出てしまうんでは?」という仮定にある。
- しかしながら、例えば前屈子宮なら、仰向けで寝ているほうが子宮が縦になってしまうことになる。
- ETと一緒に子宮内に入れた「空気」の観察により、ET後に動いても、空気の位置は変動しないことが証明されている(これはつまり、ET後に動いても胚は出てこないということを示している)。
2.患者はET後やART中安静にしているのか?
- 「ET後に安静にしてもいいことなんて無いんですよ」と説明してもなお、60%の患者は安静にしたいと思った、というデーターがある。
- エネルギー消費を検討した結果でも、ART治療中の患者のエネルギー代謝は低下していた。
3.医者はET後に安静を勧めているか?
- そもそもIVFが開始された時代から伝統的に安静が言い渡されてきた。
- もはや、ET後の安静が臨床的にも実験的にも何の有用性がないことが示された現代においても、多くの不妊治療施設では、ET後の安静と活動制限を推奨している。
4.ET後の安静によりARTの成績はどうなっているか?
- 2005年の報告では、安静なし v.s. ET後1時間安静で、安静無し群24.55%、1時間安静群21.34%の妊娠率。
- 2001年の報告では、ET後安静無し v.s. 一晩入院安静で、着床率:22.5% v.s. 14.5%、妊娠率50% v.s. 22.2%、「赤ちゃんを家に連れて帰った」率:40% v.s. 11%で、すべてが「安静無し」群に軍配が上がった。
- このように、ET後に安静にすることが、ART成績の悪化を招くという報告が多い。
5.なぜET後の安静が悪いのか?
- ET後の安静が、ストレスや不安になり、精神的に負に働く可能性がある。
- そもそもART治療を受けている患者のストレスは相当なもので、安静の指示はそれに輪をかけるようなものだ。
- さらに、医者に安静を指示されると、患者はその後必要以上に安静にしてしまい、悪循環に陥る。
- 逆にET後やART中の安静、運動制限を止めることによって、患者は安心し、ストレスが軽減するのかも知れない。
6.なぜいまだに医者は「ET後安静」を指示するのか?
- 実は産婦人科医が安静を支持するのは、何もET後に限ったことではなく、流早産予防、子宮内胎児発育遅延などの時にもエビデンスはないのに安静療法を用いるシーンが多い。
- 生殖医療の現場では、AIHの後の15分程度の安静が妊娠率の上昇に結び付くことが知られていて、これをETのシーンでも応用してしまうのかも知れない。でもAIH後の安静とET後の安静は全く別物である。
7.ART中安静にしようとする患者の態度を変えるにはどうすればよいか?
- まずそもそも、80%程度の患者が、安静にしたほうがいいと信じ込んでしまっている。
- さらに、ART中に患者が安静にしてしまう主要因は夫にある。
- ART前に、通常の活動量を維持し、ストレスをためないようにすることが有用だ、と十分説明が必要であろう。
とのことです。
何を隠そう、僕も最近まで、「安静にしてもしなくても一緒」とは思っていました。つまり、
「イコール」の関係。
なので、伝統的に「安静」にしてもらっていました。
ところが、そういうわけで、どうやら、「安静の方がいけない」という流れ、つまり、
不等号なんですね。
そんなわけで、僕自身は、「ET後の安静」止めちゃいました。
ET終わった瞬間
「はい、立って、着替えて、お帰り下さい。」
といった感じです。
ここでも「昔の常識、今の非常識」になっているようですね。