IMSIはどうなのか?

2013年1月記

IMSIという手技があります。
顕微授精には違いないのですが、通常のICSIに比べ顕微鏡の倍率が高倍率になっていて、よ~く精子を観察して、綺麗~な形の精子を選び出して顕微授精する、という奴です。
これが出た当時はもう鳴り物入りもいいところ
「すっごい妊娠率上昇!」
「流産率は凄い下がる!」
「やっぱ、かっこいい精子を選びに選ぶべき!」
といった雰囲気でした。

で、高~い機械を導入して、「冷やし中華始めました!」バリに
「IMSI始めました!」
と盛り上がったもんです。

ネット上でも患者さんたちの間でちょっとしたブームになりました。
(ちょと検索すると、その頃の患者さんのHPとかブログとか引っかかるんじゃないですかね?)

で、そんな盛り上がりのなか、当時の僕も鼻息荒く「IMSI最強!」といった内容の論文を書いて、米国の某雑誌に投稿したんですね。
そうしたら、査読者の先生からの冷た~~い返事が帰ってきました。
えっと、返事は2010年6月。以下コピペ(本物)

The role of IMSI is probably overstated in the manuscript. The studies of Bartoov were not particularly well-designed, could not be replicated in other centres, and other investigators have demonstrated no benefit of IMSI use vs. ICSI for most populations of patients

まあ、要するに、
「お前、IMSI過大評価しすぎ。踊る阿呆もいいところ。いまどきIMSI否定されつつあるの知らね~の?プゲラ」
といった感じですね。
すっかり赤っ恥をかきました。
(しかし、英語で批判されると本当にへこむんですよね。キツい言語だなぁ。)

その後冷静になって周囲の話を聞くと、やっぱ、そんなに盛り上がっている訳ではないようなんですね。
当時僕が教えてもらったのは
「初回からやるものではないのかも知れないよ」
「何回かICSIでダメならstep up的にとか言うレベルらしいよ」

え?なんだ。そういうレベルに落ち着いてるんだ。そうなのか。
で、すっかり興味も失せていたのですが、今回ちょっと必要に駆られ、最近の流れを調べてみましたのでご参考までにまとめておきます。

2010年

えっと、そういう訳で、僕が査読の先生に叩きのめされた(根に持ってる!)2010年です。

<対象>男性不妊があるか、IVF/ICSIで2回以上着床しなかったか流産したカップル
<結果>In terms of embryo quality at day 2, IMSI had the same performance as conventional ICSI. 


IMSIに対して、普通のICSIを「conventional ICSI」と表現してありますね。
まあ、「眉つば」よ、といった感じでしょうか?

2011年

で、一年後の2011年。

<対象>ICSIで2回以上着床しなかったカップル
<結果>
Our results suggest that IMSI does not provide a significant improvement in clinical outcome compared to ICSI, at least in couples with repeated implantation failures after conventional ICSI. However, it should be noted that there were clear trends for lower miscarriage rates and higher rates of ongoing pregnancy and live births (both nearly doubled) within the IMSI group. 

で、「ICSIで2回以上着床しなかった」という条件が付いているのが多分ミソです。
この辺から、「素」で、というか、「何の条件も付けずにIMSI v.s. ICSI」という論文があまりみられなくなってきます
「普通のICSIで上手くいかなかった場合」とか、いろいろ母集団に条件が付いてきます
step up的に検討しようという流れでしょうか?
で、結果はIMSI v.s. ICSIで(統計学的には)有意差なし。でも、IMSIの方が数字はいい傾向にあったよ、といった感じでしょうかね。

<対象>ICSIで全く胚盤胞が得られなかった男性不妊患者
<結果>
The IMSI procedure improved embryo development and the laboratory and clinical outcomes of sperm microinjection in the same infertile couples with male infertility and poor embryo development over the previous ICSI attempts.

で、同じように「ICSIで全く胚盤胞が得られなかった男性不妊患者」という風に母集団を限定してきています。
で、「過去にICSIでうまく行かなかったという条件を付けると、IMSIいいかもよ」といった雰囲気。

2012年

<対象>cIVF/ICSIで2周期以上結果が出なかったカップル
<結果>IMSI seems to give better embryo quality and more blastocysts

<対象>4~30個採卵できたカップルでIMSI v.s. IVSI
<結果>
The injection of a spermatozoon, selected under high-magnification, into a morphologically normal oocyte leads to the highest probability of developing high quality embryos.

<対象>奇形精子症
<結果>IMSI is a method of choice in patients with teratozoospermia.

2番目の論文は(内容全部読んだ訳ではないのですが)pureに(母集団を限定せずに)IMSI v.s. ICSIなのでしょうかね?
一番上の論文は「cIVF/ICSIで2周期以上結果が出なかったカップル」、一番下の論文は「奇形精子症」といった感じでやはり対象を絞って行い、結果が出ている、という状況と考えて良さそうですね。

そんな訳で、だれかれ行えばいい手技か?というと、今のところそういう流れでは無いようで、「やるべき人を選んで行うといいかも」といった感じのようです。

で、おまけ。

ICSI v.s. IMSIで、できた胚の「性別」に差があるかを調べてみました、という論文です。
その結果、
The results showed that IMSI results in a significantly higher incidence of female embryos as compared with ICSI.
(IMSIで女の子の確率が有意に増えた!)

A higher proportion of morphologically normal spermatozoa analysed under high magnification seem to carry the X chromosome.
(高倍率で綺麗に見える精子って、X染色体を持っている比率が高いのかも?)

だそうです。

精子の「見た目の綺麗さ」が、どこまで「精子の質」の指標になるのか?というわけですね。

美人(美男子)を選ぶと、性格のいい人の比率が増えるのかどうなのか?考えどころです。
少なくとも、今のところ、「だれかれみんなIMSIで!」という流れで無いのは確かなようです。(いろいろ議論のあるところかも知れませんが。) 

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