肥満と男性不妊

2014年4月記

もちろん「全て」ではありませんが、「肥満・メタボ」に関連する症状の一つとして「男性不妊」が出ていることがあります。
この場合、「妊娠を目指す」のはもちろんなのですが、この時点で同時に「肥満・メタボを改善する」方向で動機づけをすると、結果、その方の「生命予後の改善」まで見込める可能性があるわけです。
ここでは、なぜ肥満が男性不妊を引き起こすのか?についての見識を深めてみたいと思います。
参照する論文はこちら。

この論文は、「図」が綺麗で気に入っている論文です。
是非、リンク先に飛んで、図を見てみてください。
では、論旨。
いつものごとく箇条書きにします。

1.Introduction & 2.What is obesity?

3.How dose obesity affect male fertility?

ということです。
で、この論文の「図1」を見てみましょう。

obsesity(肥満)が、幾つかの原因により(これが次の第四章の内容)、ED(erectile dysfunction)なり、精液所見の悪化(altered seminal parameters)を引き起こし、妊孕性の低下(sub-fertility)を引き起こす、というわけです。

で、この「原因」が次の章で書かれています。

4.What are the pathophysiological mechanisms?

第4章は、「肥満だと何でEDになったり、精液異常になるのか?」のメカニズムについてのまとめです。

4.1 genetic factors

ちょっと専門的過ぎました。
「肥満」と「男性不妊」という、一見関係が無いように見える症状同士が一緒に出現する疾患がいくつかあります。
で、一方で、「肥満でも性欲モリモリで子沢山」の方もいれば「肥満でEDで精液検査異常あり」となる人もいる。
この2パターンは何が違うのか?という話なわけです。
ここで例として挙げられていたのが、「アロマターゼ遺伝子の遺伝子多型」なわけです。
もう、本当に噛み砕いて表現すると、「体質」ですね。
太ると、脂肪組織が男性ホルモンを"壊して"、女性ホルモンにしてしまうわけですが、この効率に個人差がある、というわけです。
要するに、太っても、脂肪組織があまり男性ホルモンを壊さず、男性不妊を呈さない体質の人と、太ると、脂肪組織がガンガン男性ホルモンを壊して女性ホルモンにしてしまって、男性不妊を呈しやすい体質の人がいる、ということを言いたいわけです。

(以下、オタクな人用)←一般の方は理解する必要ないですよ!
ここで出て来たHammoud先生のpaperは、Fertil Steril 94(5), 1734-, 2010です。
aromatase遺伝子(CYP14A1遺伝子)のintron4にある(TTTA)repeatの回数にpolymorphismがあるそうなのですが、これによって、脂肪組織でのアロマターゼ遺伝子の転写活性の程度が異なり、結果、脂肪組織でのアロマターゼ活性の程度が異なるのではないか?すなわち、(TTTA)repeatの回数により、同じBMIでもT/E2比率が個人個人で違う、よって太ってもE2が上昇しにくい人と、太るとE2が上昇しやすい人がいるのではないか?という論旨の論文です。

次の4.2は、長いので、先に要点だけまとめちゃいます。
筆者の先生が指摘しているのは、大きくは2つ。

  1. 脂肪細胞に存在する「アロマターゼ」が悪い。テストステロンをばんばん壊してエストラジオールにしちゃうので、低テストステロンになるわ、(エストラジオールによってネガティブフィードバックがかかるので)下垂体からのFSH/LH分泌が低下するわ。ホルモン環境が変化するんだよ。
  2. 脂肪細胞そのものが分泌する物質(アディポカイン)が関与しているっぽい。レプチンなんかは造精段階に直接作用してるっぽいし、他の物質は、精巣内で活性酸素種(ROS)を増やし、精子を壊しているっぽい。

という内容です。

4.2 Hormonal mechanisms and adipokines

アディポカインは動脈硬化の原因となったり、インスリン抵抗性の原因となったり、メタボリック症候群絡みで注目を集めておりますが、これが精巣でも悪さをしているのだろう、というわけです。
アディポカイン!恐るべし!

4.3 Environmental toxins

4.4 Physical mechanisms

とのことです。
こういった原因が積もり積もって「ED+精液所見悪化」を起こすのだろう、ということですね。

5.Are there solitions?

治療法についてです。
なお、日本では今日現在認可されていない薬物療法が記載されていますので、ご了承下さい。

5.1 lifestyle changes

5.2 Pharmacological interventions

5.3 surgical options

まとめ

以上、「肥満と男性不妊」についての論文を見てきました。

「肥満」と聞くと「糖尿病/動脈硬化/痛風/高脂血症/肝機能障害/・・・・」などなどの内分泌/代謝性疾患をイメージなさると思うのですが、実は「男性不妊(性機能障害(ED)/精液所見異常)」もこういった関連疾患の一つなのです。
つまり、「メタボの合併症」の一つとして「男性不妊」が存在している、という構図なのですね。

不妊治療の現場では、精液検査結果のみで「IVF/ICSI」で解決しようとするシーンを多々見ます。
確かに「生殖」という面では時間が限られているのでそれもありなのでしょうが、お気づきの通り、完全に「対症療法」です。
全く「根治療法」にはなっていません
つまり、

・・・いいんですかね?

不妊治療の現場には、他科にくらべお若い方がいらっしゃいます。
つまり、その方にとって「メタボの合併症」の初発症状が「不妊」である方もいらっしゃるわけです。
もしここでその方の意識が変えられたら、その方の「生命予後」を変えられる可能性があります
ARTたけやって「はい。さようなら」では、多分、そのままズルズル行ってメタボ一直線。
大きな違いだと思いませんか?
大きなお世話ですかね?

不妊治療の現場は、実はメタボ患者さんのfirst visitの医療機関になっている可能性もあるわけです。
つまり、リプロダクティブ・ヘルスの管理方法次第で、目の前の方の「生命予後」を変化しうるわけです。

しかも、50歳、60歳の方が生活習慣を改めるのに比べたら、お若い分、ハードルは低く、効果的な可能性があります。
まして「父親/母親になろう!」という方々なわけですから、生まれ来る生命の命を背負う分、末永く健康でいていただきたいわけです。

もちろんそれだけではありませんが、意識高く「生活習慣の再確認」を行っていただきたいわけです。

inserted by FC2 system