PCOに対する治療の基本的な流れ
PCOに対する治療の復習
2013年のReprod Med Biol誌(日本生殖医学会、日本受精着床学会、日本アンドロロジー学会が発行している英文誌)に、東京医科歯科大学の久保田教授によるPCOのreviewが載っていますので、ここではこの論文の「治療」のところに書かれている内容をまとめておこうかと思います。
元論文へのリンクはこちらです。
リンク先の右上の方にFree inなんちゃらというアイコンがありますね。これをクリックすると、論文そのものが(英語ですが)見ることが可能です。
このページでは、「New criteria of PCOS treatment in Japan」という段落の要旨を箇条書きにしていきます。
右の画像がこの論文の図6をお借りしてきたものです。
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【挙児希望がある場合の治療】(1)肥満の治療
前置きとして、この段落の前にPCOにはobese PCOとlean(non-obese) PCO、つまり「太ったPCO」と「そうではないPCO」があります、という解説がなされています。
- obese PCOは欧米ではPCOの40~60%を占めますが、日本では26%と少ないです、という解説がなされています。
- obese PCO(BMI 25以上)の患者は、減量と運動が最優先である。
- Normanらは、obese PCOの場合、ライフスタイルを変えれば、インスリン感受性は改善し、排卵や妊孕能が改善することを報告している。
- 減量のための食事と運動といったライフスタイルの変化をobese PCOの管理の第一段階とすべきである。
- 減量により自然排卵が可能になったり、排卵誘発剤の減量が可能となる。
とのことです。
ということで、PCOはBMIを見てobese PCOなのかnon-obese PCOなのかを見分けることが第一段階です。
いきなりクロミフェンではないんです!
どれだけ体重を減らせばいいのかもこの論文にはちゃんと書いてあります。
loss of at least 10% of body weight
ということで、10%以上の減量です。
で、逆に、non-obese PCOの場合はいかがでしょうか?
上の図を再確認しておきましょう。
「weight loss, exercise」は通っていませんね。
つまり、non-obese PCOなら減量は必須ではないというわけです。
時々いらっしゃいますが、明らかにlean PCOの方が「PCOと言われたので、私もダイエット頑張ってます!」というパターン。
それ以上痩せちゃうと別の意味で良くない気がしますが・・・・、というケース。
PCOなら何でもかんでもダイエット、ではないんですね。
【挙児希望がある場合の治療】(2)クロミフェン療法
- クロミフェン療法はPCOに対する標準療法である。
- PCOの70-85%で卵胞発育が見られ、40-50%が妊娠する。
- non-obese PCOと、ライフスタイルの変更を行っても排卵しないobese PCOが適応となる。
- 男化兆候が強い場合と肥満が強い場合、効果が出にくい。
- クロミフェン150mgで5日間、3か月誘発しても卵胞発育を認めない場合「クロミフェン抵抗性」と呼ぶ。
- クロミフェン抵抗性の場合、高アンドロゲンの場合にはステロイドを併用すると効果的である。
【挙児希望がある場合の治療】(3)インスリン抵抗性PCOへのメトホルミン+クロミフェン療法
- メトホルミンのようなインスリン抵抗性改善剤がPCOでの代謝異常を改善するという報告が数多くある。
- メトホルミンは膵臓β細胞に作用することなく肝臓での糖新生を抑制したり、インスリン感受性を改善することにより血糖を低下させる薬剤である。
- メトホルミンはLHとインスリンを低下させ、卵巣アンドロゲン濃度を低下させる。
- 高インスリンかつ高アンドロゲンで、莢膜肥厚のあるケースが良い適応である。
- クロミフェン v.s. クロミフェン+メトホルミンの検討は多く行われており、「効果なし」とした報告が1つ見られるものの、その他は明らかに改善するという報告である。
- 以上よりインスリン抵抗性を有するクロミフェン抵抗性のobese PCOはメトホルミン+クロミフェン療法の適応となる。
【挙児希望がある場合の治療】(4)ゴナドトロピン療法による排卵誘発
- 今まで述べてきた治療に抵抗性の場合、ゴナドトロピン療法がおこなわれる。
- ゴナドトロピン療法時は、FSHのみ含有している製剤での低用量漸増法が推奨される。
- OHSSと多胎妊娠に注意を払う。
- 16mm以上の卵胞が4個以上見られたらhCGをキャンセルすべきである。
ということで、クロミフェン抵抗性(クロミフェン+メトホルミン抵抗性)だと、次に考えるのがゴナドトロピン療法です。
それも、通常のhMG誘発とは違って、低用量漸増法というPCOに特徴的な注射の打ち方をします。
高LH血症がベースにあるので、ここに記載されている通りFSH only(LHが入っていない製剤)で打ち始めるのが原則です。
でも、ある程度卵胞が大きくなってくると、LH入りの製剤を好んで使う先生もいらっしゃいますね。
【挙児希望がある場合の治療】(5)LOD
(管理人注:LOD=Laparoscopic Ovarian Drillingの略で、腹腔鏡で卵巣に「穴」をあけるという手術療法です。)
- 現在LODは、クロミフェン抵抗性PCOに対して、ゴナドトロピン療法と対をなす治療の選択肢という位置づけである。
- LODは多胎妊娠のリスクがより少ない点で、適応を十分に考慮すれば有効な手段である。
- LOD後妊娠は、術後半年以内に60%程度の高妊娠率が見込まれ、妊娠率のピークは術後6-9か月後に見られる。
- LODでなぜ排卵が回復するのかの正確な機序はわかっていない。卵巣間質血流の改善や、アンドロゲンを含んだ卵胞液が無くなることなどが挙げられている。
- フリーテストステロンは術前の40-50%程度に減少し、LHも低下する。
- LOD時いくつの「穴」をあけるかは、術前の超音波での卵巣の大きさにより決定する。
- 中等度に腫大した卵巣なら10-12個で、もっと大きければさらに数が増える。
- 治療後は自然排卵を認めたり、クロミフェンに対する感受性が改善する。
- このようにLODの利点は大きいが、適応には慎重であるべきである。
【挙児希望がある場合の治療】(6)体外受精
- 今まで述べた方法で排卵誘発が不成功であったり、妊娠に至らなかったら体外受精の適応となる。
- PCOの排卵誘発は、副作用回避のためpureFSHでの低用量漸増法が用いられる。
- OHSSのリスクが高い
- OHSSのリスクが高い場合、全胚凍結し、別の周期のETすることが推奨される。
- 完全にOHSSのリスクを回避する、という意味ではIVMも選択肢になる。
【挙児希望のない場合の治療治療】
- obese PCOでは、減量+運動が推奨される。
- non-obeseで無排卵の場合は、ホルムストローム療法またはカウフマン療法(低用量ピルも含む)で消退出血を起こす。
- PCOの早期診断は、PCOぬよる"unopposed estrogen"状態に併発する子宮内膜増殖症、子宮体癌の発症を予防するという観点から重要である。
- PCOの患者は子宮体がんの発症リスクが2.7倍高いというデーターがある。
少しだけ解説しておきます。
排卵障害を引き起こすPCO、不妊治療のシーンでは鼻息荒く頑張るわけですが、では、妊娠を考えていない時期は放っておいていいのか?というとそうではない、というわけです。
「子宮内膜増殖症→子宮体癌」の予防をせよ、と書かれていますね。
細かい説明は省きますが、PCOの場合、排卵が起きない(起こりにくい)ので、周期的なプロゲステロンの分泌が起こりません。
エストロゲンだけが単独でジワジワっと出ている状態が続いてしまいます(この状態が"unopposed estrogen"状態)。
すると、エストロゲン依存性腫瘍である子宮内膜増殖症→子宮体癌の可能性が高まる、というわけです。
なので、これを予防しましょう。それが「ホルムストローム」であり「カウフマン(低用量ピル)」ですよ、というわけです。