POI(1):早発閉経でもその後の妊娠の可能性はなくはない


早発閉経(POI、POF)とは?

この病態、まずもって病名が混沌としております。
日本語では比較的良く使われているのが「早発閉経」で、他に「早発卵巣不全」など。
英語の記載では、直近はPOIPrimary Ovarian Insufficiency)というのが一番しっくりきている様子。
でも、ちょっと前まではPOF(Premature Ovarian Failure)という言葉が多用されていました。
他にも、Premature Menopause、Early Menopause、Hypergonadotropic Hypogonadism、Ovarian dysgenesis、hypergonadotropic amenorrheaなど。

そんな現状なので、本HPではとりあえず、日本語では、ちょっと確かに刺激の強い言葉ですが、理解しやすい「早発閉経」、英語ではPOI(POF)という表現を使うことにします。

で、状態的には、40歳未満というお若い年齢で、あたかも閉経したかのように月経が来なくなる(あるいは、閉経直前のように月経不順になる)状態で、ホルモン状態的には「高ゴナドトロピン血症」=FSHとLHが高いとなります。
一応、「診断基準」的なものは

となっています(N Engl J Med 360(6); 606-614, 2009)。
「閉経レベルのFSH」とは、「40以上」としている論文が多いようですが、事実上「25以上」あれば同等に扱うべきでしょうね。

病態生理と原因

基本病態は、「何らかの理由で卵巣機能(卵巣予備能)が低下してしまった」です。
図にしてみました。
卵巣機能(予備能)が正常だと(青で表現してみました)、下垂体からのゴナドトロピン(FSH/LH)分泌も正常なわけです。
ところが、卵巣機能(予備能)が低下/廃絶すると(赤で表現してみました)、下垂体としては、
「何で育ってくれないの?」
「もっと頑張らんかい!」
と、ゴナドトロピン(FSH/LH)をたくさん出して一生懸命卵巣に拍車をかけるわけですね。
これが、高ゴナドトロピン血症の正体です。
では、「何らかの理由で卵巣機能(予備能)が低下してしまった」の「何らかの理由」とは、何があるのでしょうか?

【染色体/遺伝子異常】

X染色体関連の異常(Xモノソミーあるいはモザイク、X染色体の末端欠損など)や、X染色体に存在する遺伝子異常が認められるケースが10-15%程度と推定されています。
家族性を示す場合があります。

【自己免疫性疾患説】

同時に甲状腺疾患/副腎疾患/ドライアイ/SLEなどの自己免疫性疾患を有する方が多いとされています。
この場合、同時に「抗卵巣抗体が出来てPOIになるんでないの?」という説があります(英語の教科書を読むと、よくautoimmune oophoritis(自己免疫性卵巣炎)と書かれています)。
実は、POIの方は臨床的に「寛解期」を示すことがあり、また一部ステロイドが卵胞発育率を改善するのでは?という報告もあり、この辺も自己免疫性疾患と考えると臨床像は確かに一致します。
但し、現在の所、「抗卵巣抗体」検査は特異性に欠け、推奨とはなっていないようです。

【医原性】

抗癌剤・放射線などの治療後にPOIとなる可能性があることは、最近では広く啓蒙されていますね。
あとは、卵巣への手術操作によって引き起こされる卵巣予備能低下も最近では広く知れ渡り、細心の注意が払われるようになってきています。
子宮内膜症の繰り返し手術が非常に危険なのは、もうすっかり有名になりましたね。
内膜症といえば、アルコール固定一発でPOIなんてこともあり得ます。

【感染性】

流行性耳下腺炎(いわゆる「おたふく」)後の卵巣炎が有名ですね。

その他、原因不明のものも多いです。

頻度と症状

頻度的には、20歳時で10000人に一人、30歳時で1000人に一人、40歳時で100人に一人とされています。
そんなわけで、凄く珍しいというわけでは無いです。
事実、僕もしょっちゅう拝見いたしております。

で、症状的には「先月まで順調だった生理が突然来なくなった」となることは多分まれで、多くの方は「(早発)閉経になる前触れ」を経験しております。
つまり月経不順ですね。

で、絶対に知っておいていただきたいことは、先ほども出てきましたが、状態によっては「寛解期」がありうる、ということです。
稀ながら、「早発閉経」と診断された後、「寛解期」が続いて、数年間規則的に排卵し続けた、なんて報告もあるそうです。
これはいろんな意味で重要で、「POIだから今後絶対一生妊娠しない」ではないんですね。
この点が、ライフプランを立てる上でも重要です。
妊娠を望んでらっしゃる方は、絶対終わり、というわけでは無いし、逆に、妊娠を望んでらっしゃらない方は、「望まない妊娠」が起こりうるわけです。

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