PRL(2):プロラクチンが高いとなぜ不妊になるのか?


プロラクチンとは何か?

では、解説にまいりたいと思います。
「プロラクチン」というホルモンは主に(←ミソ!)脳下垂体前葉というところから分泌されています。
図で示すと、右の青い矢印の所です。
で、このホルモン、何をやっているか?というと、一説には300位の仕事があるようです。
  • 子宮内膜局所では、子宮内膜が胚を受け入れ着床し分娩に至るまでの一連の変化に関連しているそうです。
  • 卵巣では、黄体の形成・維持にも役立っているようです。
つまり、当然なのですが、プロラクチンは「悪のホルモン」ではなく、「必要なホルモン」です
不妊がらみでは、黄体形成/機能にも、着床にも活躍している非常に重要なホルモンであることをよ~~~く覚えておいてください。

そんなプロラクチンの別名は「乳汁分泌ホルモン」です。前項、

にもあった通り、分娩後に母乳を出させることが、プロラクチンの最も良く知られたお仕事です。

「授乳中は生理が来なくなる/不順になる」

という話は聞いたことがあるかと思います。
これもプロラクチンのお仕事です。
プロラクチンは母乳を出させると同時に生理不順/無月経をわざと起こします
子供が生まれて、その子に母乳を与えている最中に次の赤ちゃんを妊娠してしまうと、母親の体はもちません。
上の子に授乳をしている真っ最中には、次の子ができにくくなっているわけです。
生体防御反応の一つなんでしょうね。

プロラクチンはどのように生理不順/無月経を引き起こしているか?

そんなわけで、プロラクチンは、授乳中わざと生理不順/無月経を引き起こしています。
このプロラクチンの仕事っぷりを覗いてみたいと思います。

その前に、ちょっと復習です。
月経周期が順調に来るためのメカニズムはどのようになっていたでしょうか?
やや難解な内容ですが、本HPで解説済です。えっと、

です。
ごくごく簡単に説明しておきますと、月経周期を支配しているのは、子宮でも卵巣でもなく「脳」でした。
間脳の視床下部というところが全ての指示を行い、月経周期を作っているのでした。
この総司令塔、別の言葉でいうと「指揮者」に相当するのが「Kiss1ニューロン」という神経細胞でしたね。
「Kiss1ニューロン」が指揮棒を振って、月経周期をコントロールしているのでした。

で、プロラクチンがどのように生理不順/無月経を起こしているかというと、僕の大好きな論文にきれいな絵が描かれています。
図を借りてきました。(Ursula B et al. J Clin Invest 2012

プロラクチン(図の一番上の、水色の粒)が、Kiss1ニューロン(黄色の神経細胞)に働きかけていますね!
これです。これ。

で、Kiss1ニューロンが「キスペプチン」という物質の分泌を止めます
(実際にはこれが「間欠泉状分泌」になっていて、その「間欠泉」の回数が減るわけです。これを「パルス状分泌」と呼ぶのでした。))

すると、ここからドミノ現象が起きるわけですね。

プロラクチンがKiss1ニューロンに認識される。
➡ Kiss1ニューロンが「キスペプチン」を分泌しなくなる(パルス減少)。
➡ GnRHニューロンが「GnRH」を分泌しなくなる(パルス減少)。
➡ 下垂体前葉のgonadotrope細胞が「ゴナドトロピン(FSH/LH)」を分泌しなくなる(パルス減少)。
➡ 卵巣で卵胞が発育しにくくなる、または排卵しても黄体ホルモン分泌不全になる。
➡ 月経不順/無月経/黄体機能不全になる。
➡ 妊娠しなくなる。


これが、プロラクチンが生理不順/無月経を作り上げているメカニズムと考えられています。

どうですか!よくできているでしょ!
そうです。つまり、
プロラクチンはKiss1ニューロンに働き、結果、下垂体からのゴナドトロピン(FSH/LH)が分泌できなくなることにより、月経不順/無月経/黄体機能不全を引き起こし、最終的に不妊状態を作り上げている
というわけです。
これ、キモ中のキモです。
もう少し難しい言葉を使うと、視床下部性無月経/月経不順(低ゴナドトロピン血性卵巣機能低下症)というわけです。

細かい話ですが、この場合、FSHはどうなるんでしたっけ?低下する?違いますよ。
「正常~低下」です。
理由も説明できますか?
そうですね。この場合のFSHは「値の低下」のみならず「パルス回数の低下」なので、必ずしも血中FSHには反映されないこともあり、正常値をとることもあるのでした。
この解説は、 で解説済です。

「プロラクチンが高いから不妊」ではない!

そんなわけでまとめると、

難しかったでしょうか?
でも、これが理解できると、この後の理解がぐっと楽になります。
難解で申し訳ないのですが、何となくでも流れを掴んでおいてください。
ちなみに男性の高プロラクチン血症も全く同じ原理です。
つまり、「低ゴナドトロピン血性精巣機能低下症」による精子形成障害/性機能障害を引き起こします。

以上の視点から、

をもう一度読み直してみてください。
この文章が非常によく書かれていることに気が付くかと思います。

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