子宮頸部円錐切除術が術後の妊孕能に与える影響

2014年4月記

子宮頸部円錐切除術

「どこからどこまで」の話が非常に微妙なのですが、大体CIN3が検出された場合、「子宮頸部円錐切除術」という処置が行われることがあります。
子宮の「出口」を円錐状に切除してくるのですね。

この円錐切除術は、基本的には「検査」です。
子宮の出口のCINができる部分全体を取ってきて、全方向で一番進行していた部分はどの病態だったのか?+切り取った部分に病変が全部収まっていたか?を顕微鏡で確認します。
そのうえで、一定条件が満たされれば、これを「治療」とみなすことも可能、という手技です。

「どこからどこまで」が議論があってなかなか難しいです。
大体CIN3前後が適応と考えられることが多いと思います。
かつ、円錐切除だけで終わらせていい病勢がどこまでか?も難しい所です。

ガイドライン的には、妊孕性温存を望むなら~CIN3(上皮内癌)で取り切れていれば(断端陰性といいます)円錐切除で可とされています。
また、ステージⅠも、一定の条件を満たせば可とすることもあります。
この辺は症例毎に十分インフォームドコンセントの上、方針が決定されていると思いますので、きっぱり線引きがなされているわけでは無いです。

円錐切除後の妊孕性の問題点

円錐切除術は、CINを切除するわけですが、当然子宮頸部健常部分も少なからず切除されるわけです。
で、「術後の妊孕性」という意味では、頸管因子が懸念されるわけです。

まずは手術そのものに併発する可能性として「子宮頸管狭窄→子宮留血腫」があります。
円錐切除後の子宮口が狭くなったり、場合によってはふさがったりして、月経血が外に出られなくなって子宮内に溜まります。
腫瘍の状態によっては、「大き目(深目)に円錐切除をする必要がある」事があるのですが、切除した円錐の「高さ」に比例して併発する確率が高くなるそうです。
また、分娩後、無月経期の手術でも起きやすいそうです。

一方、そういった「症状」を引き起こさない、無症候性の円錐切除後場合は、「円錐切除後」という状態は不妊と関連するのでしょうか?
子宮頸部は、「生殖」という面では、ご存じの通り、重要な「頸管粘液」を分泌する組織ですから、単純に想像するに、

という発想は誰もが思いつくわけです。

では、これらの仮説は、医学的にはどうなっているのでしょうか?
実は答えを先に言ってしまうと、実は今の所、「円錐切除が妊孕性を阻害する」という科学的根拠は無いと思います

流れ的にはこんな感じです。
まず、2006年のlancetで、

です。
この論文は、基本的に、妊娠した後の状態(早産、前期破水、低出生体重など)を論じた論文ですが、その中に少しだけ妊娠率と妊娠成立までに要した時間に関する記述があります。
そこでは「有意差無し」と書かれています。

そんなわけで、
「円錐切除術がその後の妊孕性に与える影響」というのは、理論的にはいかにもありそうだが、科学的にエビデンスは出てはいない
という状況です。

そんな状況ですが、「やっぱり妊孕性低下しているんでは?」という研究報告が出てくるのも事実です。
例えばこちら。

この論文は、最終的に妊娠に至った人を対象に、妊娠に至るまでに要した時間を、CINに対して治療(円錐切除~レーザー焼灼を含む)を行った群 v.s. 経過観察だった群 v.s. CINが無い群で比べています。
で、妊娠に至るまで1年以上の時間を要した割合で比較。
CINに対して治療を行った群:16%
経過観察だった群:8.6%
CINが無い群:8.4%
で、CINに対して治療を行った群では、妊娠成立までに1年以上を要した方の割合が2倍に膨れ上がる、という結果だった、ということです。

そんなわけで、円錐切除術、つまり「頸管を一部切除した」という状況が妊孕性にどの程度影響を与えているのか?については混沌としています。
理屈的には疑わしい。
でも、データーを取ると、「有意差出ない」だったり「いや、やっぱり怪しい」だったり、という感じです。

そんなわけで、「円錐切除後」という状況が、術前と全く同じ妊孕性か?と言うと、疑わしいのも事実です。
その点も心の片隅に置いておいてください。

inserted by FC2 system