子宮頸がん検診の結果の読み方

現在子宮頸がん検診を受けると、結果が呪文のようなアルファベットの略語で帰ってきます。
「ベセスダ分類」と言います。
僕らサイドでは非常によくできていて、経過観察していくのに適した結果なのですが、一般の方にはちょっととっつきにくいかと思いますので、なるべく平易に解説してみたいと思います。
(一昔前まで「クラス分類」というのが使われていて、結果がローマ数字で記されていたのですが、今日では使われなくなっています。)

子宮頸がん(扁平上皮癌)が発症するまで

「子宮頸がん」とは、子宮の「出口」にできる癌です。
一まとめに「子宮頸がん」と言っても、いろんなタイプがあるのですが、ここではそのうち最も多い「扁平上皮癌」というのを念頭にお話ししていきます。

この癌は基本的に
「昨日は正常でした。一晩寝て、今日朝起きたら癌になりました。」
とはならない、と考えられているのですね。
段階を経て「ジワジワ」進んでいくと考えられています。
ざっと左の通りです。

上皮内癌から先が「子宮頸がん」と呼ばれています。
「異形成」というのは、「癌ではない。でも癌化しやすい状態」ということで、「前癌病変」なんて呼ばれることもあります。
この病態の進展には、「ウイルス」が関与しているのだろう、と考えられているわけです。
で、そのウイルスの名前が有名なHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス;Human Papilloma Virus)です。

HPVは100種類以上のタイプが知られていますが、特に子宮頸がんの病態進展に関連が高いであろう、というのが13種類ほど挙げられていて、これらを「ハイリスクHPV」なんて呼んでいるわけです。

【HPVの特徴】

そんなわけで、「ハイリスクHPV」は「感染しているかどうか」で勝負するわけではないんです。
感染するのが普通のこと。異常事態では全然ない。
その感染が一過性感染なのか?持続性感染なのか?の区別が大事なんです。

実臨床現場での「目」

そんなわけで、子宮頸がんへの進展様式は

といった感じなわけです。
こうすると、各々が連続病態に見えて、一般の方々が理解するには非常にわかりやすいわけです。

僕が実際に患者さんを拝見しているときには、この連続病態のあるところに「目に見えない線」を設けています。
さて、どこでしょう?

正解は、「軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)」の間です。
(下の方に図を作っておきました。)
なぜここに「壁」を作っているのか?を解説してみたいと思います。

先ほどお話したごとく、
「ハイリスクHPV」は「感染しているかどうか」で勝負するわけではなくて、「感染が一過性感染なのか?持続性感染なのか?」がポイントなのですね。

最終的に癌化まで行ってしまう方は「持続感染」に陥ってしまった方なわけです。

「ハイリスクHPV」に感染した方の中で、その感染が「持続感染」になってしまう方は約8%でしたね。
このうち、1割の方が癌化するわけです。

なので、「いかに一過性感染を拾わずに、持続感染を確実に捕まえるか?」が大事なわけです。

逆にいうと、一過性感染の方に過度な不安を与える必要もないわけです。

つまり、目の前にいる「ハイリスクHPV陽性」の方は「一過性感染」なのかな?それとも「持続感染」なのかな?というのを想像しながら診療に当たらせていただくわけです。

で、確実ではないのですが、「一過性感染」or「持続感染」の大体の判定ラインが「軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)」の間に引けるわけです。
つまり、

と考えられるわけで、「軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)」の間の目に見えない壁は、「一過性感染」と「持続感染」の壁とも考えられなくもなく、非常に重要だと思っています。

ベセスダ分類

で、この状態、さっきっから「軽度異形成」とか「CIN1」といった感じでサラッと書いて来ました。
が、実は、この、子宮頸がんへの前癌病変は、全く同じ状態でありながら、呼び方がなんと3通りあります。

【WHO分類(1994)】

「軽度異形成 - 中等度異形成 - 高度異形成 - 上皮内癌」
ですね。
一つ前までの子宮頸がん取扱い規約はこれで記されていました。

【CIN分類】

「CIN1 - CIN2 - CIN3」
で分けるものです。
CIN1が軽度異形成、CIN2が中等度異形成に相当します。
CIN3は高度異形成+上皮内癌です。

【ベセスダ・システム】

この方式では、「子宮頸部扁平上皮の非浸潤性病変(squamous cell intraepithelial lesion;SIL)」を大きく2つに分類しています。 です。
で、LSILは経過観察、HSILは(浸潤癌への移行の可能性を考慮し)治療の対象とする、という考えもあります(ただし、日本ではCIN2を治療対象とするかどうかについては異論があります)

ややこしいですね。
まとめると、次の図のような感じになります。
これが僕が診療に当たっている際に頭の中に描いている図でもあります。

で、この「一過性感染?」と「持続感染?」の壁が、ちょうどベセスダ・システムのLSILとHSILの壁でもあるわけです。(ま、ベセスダはそれを意識して作られているわけですが。)

同じ病態に3つもの呼び方(分類方法)が並行していてややこしいのですが、こんな感じになっています。

ちなみに現行の「子宮頸がん取扱い規約(第3版)」は、基本的にCIN分類ですが、「異形成」分類+「ベセスダ」分類が併記されています。

細胞診の結果の読み方

そんなわけでややこしいのですが、子宮頸がん(もっと細かく言うと扁平上皮系)とその前がん病変の分類は3方式が並立しているわけです。
で、この概念図を、今度はベセスダ・システムを主人公にして書くと、こんな感じになります。

ベセスダは細胞診(いわゆる子宮頸がん検診)結果の用語と記述方式を体系化したものですので、細胞診の結果がまさにこのアルファベットの略語通りに書かれてきます。
これに、さらにLSIL疑いをASC-USHSIL疑いをASC-Hと記載します。
なので、まとめると、
こんな感じです。
皆さんが子宮がん検診を受けられると、結果は現在では上の色のついたアルファベットで帰ってくるはずです(実はこれだけではないのですが)。
つまりは、その原因たるHPVというウイルスが今どういう動態にいるのか?というのを想像しながら実際に目の前の患者さんを拝見していくためには非常によくできたシステムです。
一見ややこしく感じるのですが、ちょっと理論を解釈すると、実によく整ったシステムなわけです。

従来用いられていた「クラス○(←ローマ数字)」という表現は、実際の臨床現場では、少なくとも腫瘍(婦人科癌)の専門家で使っている先生はいなくなっています、し、僕ももう使っていません。

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