FSD(1):女性性機能障害の分類


「不妊症」か?「性機能障害の挙児希望」か?

「不妊症」の定義を再確認しておくと、

とされています。

「2年間」という期間がどうなのよ?
という議論をよく聞くのですが、僕個人的には、この「正常な性生活」とは何ぞや?という答えを是非教えていただきたいわけです。

「妊娠したいんです」
といらっしゃる方に、よくよくお話を伺うと、明らかに「妊娠するためには正常な性生活ではない」カップルがいらっしゃいます。
それも、結構多い。
データー取ったわけでは無いですが、過半数そうじゃないですかね?

で、僕はいつも言うのですが、
「正常な性生活」を行っているけど妊娠しない状態(不妊症)と「正常な性生活」が行えていないので妊娠できない状態(性機能障害)は分けて考えるべきだ
と思っているのです。

「不妊症」と「性機能障害の挙児希望」を同じ治療コースに乗せるのは絶対におかしい、と思っているわけです。
この二つの状態は絶対別物です。分けて考えないと痛い目を見ることすらあると思っています。
(これ、本当に重要!「性機能障害の挙児希望」の方にいきなり「不妊治療」をすると、多分「多胎妊娠」が増えます。)

で、不妊治療の現場では、別に女性に限らず、男性性機能障害(勃起障害・射精障害)も、結局AIHなどの生殖補助医療になってしまうシーンが多い訳です。
それでもいいのかも知れないのですが、できれば性交渉による妊娠にこだわりたい訳で・・・(僕の個人的こだわりなのかも知れませんが・・・)。

女性性機能障害の頻度

で、この「性機能障害」、ご主人さん側の因子(勃起障害・射精障害)のカップルが確かに多いですが、奥様側の因子の方も決して稀ではありません。
かつ、これも、「男性も女性も両方とも」というカップルもいらっしゃったり、なかなか奥が深いわけです。

「女性性機能障害」は、英語で「Female Sexual Dysfunction」と言い、頭文字をとって、FSDと呼ばれています。

「日本人はそうした質問になかなか答えてくれない」
という意見を耳にすることがありますが、そうなんですかね?
僕個人的な感想では、実臨床上(妊娠に向けて)絶対的に必要不可欠な情報だと思っているので、初っ端からガンガンオープンに聞いちゃいますけど、結構皆さんすんなり答えてくれることが多いと思いますけど。
(僕個人の感想なのですが、男性側の方がよっぽど聞き出しにくいと感じています。多分、「プライド」が邪魔をするんだと思います。)

で、そうしたことを誰にも話せず悩んでいる方や、場合によっては「耐えている」方なんてのも多いです。
「私みたいな人は稀」
みたいに捉えている人も多い。
また、特に女性に多いパターンとして、
「ご主人さんに申し訳ない」
という感情を持っている方もよくいらっしゃいます。

頻度ですが、そんなわけで結構な割合です。全然「稀」ではないですね。
例えば、アメリカのデーターですが、こんな感じ。

18歳以上の女性31581人中、何らかの性機能上の問題(性欲、性的興奮、オーガズム)がある、と答えた人は43.1%にのぼるそうです。

ね?みんななんらかの形で悩んでいるわけです。

女性性機能障害の分類

で、「教科書的」には(実は僕は個人的にこの分類に一部腑に落ちていない点があるのですが、ま、それは僕個人の問題なので置いておいて)次のように分類されています。
細かい話ですがDMS分類といいます。一応解説しておくとアメリカ精神医学会のガイドラインの分類です。ここでは、DSM-IV-TR分類(1994年のガイドライン(IV)を2000年に改定(TR;Text Revision)した分類)を書いておきます。現行は2013年改定DSM-Vになっているそうです。)

ですね。
で、「分類」と聞くと、どれに当てはまるだろう?/どれかに当てはめよう、と考えがちですが、そうではないのがこの分類の考え方の特徴です

図を借りてきました。fertil steril 100(4), 2013; 905-からの引用です。
こんな感じで捉えます。

つまり、大元には「Hypoactive Sexual Desire Disorder(HSDD:性欲低下)」があり、それが「Sexual Arousal Disorder(性的興奮障害)」なり「Female Orgasmic disorder(オーガズム障害)」なり「Sexual Pain Disorders(性交時痛)」の発症要因となり、またそれが「HSDD(性欲低下)」の原因となる・・・・・・といった感じで悪循環のループに入っている、

と捉えること、これが女性性機能障害の考え方のポイントなのだと(勝手に)思っています。
(というか、男性も同じですね。HSDDへの対応をせずに、PDE-5阻害剤だけ飲んだって無効ですよね。)

分類された4つの状態が平等に縦に並んでいるわけではないのです。

生殖内分泌学的には、女性の性欲は「男性ホルモン」の影響を受けている。

そんなわけで、性機能障害の病態把握のポイントは、「HSDD(性欲低下)を中心とした悪循環のループになってしまっている、と考えることだと思います。
で、このループをどこかで断ち切ることを考えるわけですね。
当然その中心にある「HSDD(性欲低下)」をまず何とかしようと考えるわけです。

これを考えていく上で、
「女性の性欲というのは何により支配されていると考えられているか?」
というのを認識すると、戦略的に多少有用なことがあります。

その正体は、生殖内分泌学的には男性ホルモンだと考えられています。
女性ホルモンでは無いところがミソです(よく誤解されやすいのですが、この認識を間違えると逆効果になることがあるので注意が必要です)。

【初経前】

成長の過程で8歳ごろから副腎からDHEASが分泌されるようになり、これがテストステロンに変換されて性欲の出現に一役買っているそうです。
例えば、初経前でも、男の子に性的魅力を感じた御記憶はございませんか?

【生殖年齢期】

もちろん卵巣からですね。
で、卵巣からのテストステロン分泌はLHによりコントロールされていますので、LHサージに反応して一過性に上昇します
実によくできていますね。
そうなんです。排卵にピタリと合わせて、テストステロンのピークを作っているわけです。
つまり、排卵に合わせて性欲のピークが来るようにできているわけです。

いやあ、神様は実にうまいメカニズムをここにも用意してあるわけです。
気が効いてるね!
【更年期以降】

卵巣からも副腎からもテストステロン/DHEASの分泌が低下してきて、性欲低下が起こるとされています。
ちなみに女性ホルモンの枯渇は腟粘膜の委縮を引き起こし、その結果起こる興奮障害/性交時痛が間接的に性欲低下の原因になると考えられています。
なので、あくまでも間接的に作用しています。。

そんなわけで、内分泌学的に考えると、女性には月経周期により性欲の程度も変化していると考えられます。
「排卵期」、特に「LHサージ後」は悪循環ループを断ち切るチャンスでもあります。
不妊治療を行っている時は、当然この時期を捕まえている訳で、実は最大のチャンスと捉えることもできます。
「行動を起こすなら、まず排卵期」
これ、使ってみて下さい。

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