腟内射精障害のオナニー法のリハビリに「TENGA」を使ってみた

腟内射精障害という状態があります。
オナニーで射精することはできる。勃起障害はないので、女性の腟内に挿入することもできる。でもいつまでたってもイケない(腟内で射精まで至らない)、というパターンです。

男性のオナニーの方法で「推奨されている(?)」のは、「スラスト運動による用手法」なのですが、腟内射精障害の一番の原因が、ちょっとだけ個性的なオナニー法にあると考えられています。

典型的なのは、「床オナ」「壁オナ」と呼ばれている方法です。
壁とか床に押し付けてオナニーする方法ですね。
Push法」と言います。
あるいは「スラスト運動」でも、強烈に握力が強い場合など。
これらの場合は「イクための閾値」が高くなり過ぎて、(それに比べると)腟内挿入で得られるマイルドな刺激では足りなくなってしまうわけです。

他には「足ピン」と呼ばれている方法(というか体勢)など、「ある一定の体勢じゃないとイケない」状態になってる方もいらっしゃいます。
性交渉時には、その体勢が取れないのでイケない。

などなど、やや特徴的なオナニーをするパターンの方が6~7割だそうです。
(あとは「心理的」とされていて、「一人じゃないと集中できなくてイケない」とか。ちなみに「タイミング療法」を指導され始めたらイケなくなった、などというパターンもあります。)

そんなわけで「病気」では無いのですね。
特徴、というか個性というかそんな感じ。

不妊屋としてはAIH(IVIなりIUI)で解決可能なことがほとんどなのでそれはそれでいいのですが、そこで止まってしまっては「どくさま」流としてはつまらないので、僕はここに首を突っ込んでいきたいわけです。
いや、そうですよね。もちろん「挙児希望」が第一なのかもしれませんが、奥さんにだって当然性欲はあるわけで、でも夫がしてくれない(ご主人さんとしては、自分なりに必死になって隠しているわけですが)ことに多かれ少なかれ不満を持っているわけです。
またご主人さんも「腟内射精」が普通にできるようになれば、それにこしたことはない、と考えているわけです。

この状態をAIHなりで解決して「さようなら」では、溺れる人を先端技術で救い上げただけで、そのあとの対応をしないで放置しているのと同じだ、とおっしゃっていた方がいらっしゃいました。
まさにその通りだと思います。

そんなわけで、「腟内射精障害の方になんとか腟内射精ができるようになってもらえないか?」と発想するわけですが、これがなかなか難しい。
で、そもそも原因がオナニー法にあるケースの場合、
「じゃあ、オナニー法を普通の(?)スラスト運動での用手法に戻せばいいんでないの?」
と、当然誰もが発想するわけですが、これがそう簡単には行きません。
やっぱり、思春期以降の長~~~い「癖」ですから、そう簡単には戻らない。
「35歳/40歳にして、左利きを右利きに矯正せよ!」
と言われているのに近いわけです。
まして、御自身は
「妊娠すること以外は今まで通りの生活で概ねOK」
「AIHなりで挙児希望は解決可能」
となると、セルフエフィカシーを保ち続けることは非常に困難でdrop outしやすいことは容易に想像できますよね。
そりゃそうだ。
なので、
「手で弱い刺激でやりましょう。」
「数年単位で、気長に頑張りましょう。」
等と言っても、dropしない方がおかしい。
「いかにセルフエフィカシーをキープし続けてもらうか?」
という点を治療経過体系に盛り込まないといけないわけです。

そんな中、(おそらく現段階では)非常によく考えられたと感心させられる報告がありますので、取り上げてみたいと思います。
2012年の日本泌尿器科学会雑誌のこちら(リンク先からPDFの論文そのものが参照できます)。

で、独協越谷の小堀先生の論文です。
(えっと、僕もよく理由を把握していないのですが、産婦人科医は「膣」を「腟」と書かないと怒られてしまうので、個人的にも「腟」と書かないと違和感があり、以下「腟」という字を使わせてもらいます。この論文の原文は「膣」という漢字が用いられています。あしからず。)

腟内射精障害のオナニー法のリハビリテーションに「TENGA」を使ってみた

とのことです。
感じ方はいろいろでしょう。
え?たった31%?と思われるかもしれません。
でも、事情を知っている側から言わせると、これはマジで驚異の数字です
凄い。
賢い。

多分、他のどの方法もこの数字は出ないと思います。
まずもってTENGAをマスターベーション法のリハビリテーションに取り入れようと考えた発想が賢い
で、TENGAを開発した社長さんはじめ社員の皆さんも偉い
見事にnegativeなイメージを払拭することに成功している。
確かにこれならセルフエフィカシーを維持してもらえる可能性が高まる。
つまり、リハビリからdropしない可能性が高まる。

腟内射精とまでは行かないまでも、TENGAで射精ができるようになったケースでは、Push法、「足ピン」でも可能になっている、と報告されています。

確かに著者の先生も、以下のごとく考察なさっておいでです。
「治療が奏功する患者は一部であり、カウンセリングや挙児希望カップルには生殖補助医療などを組み合わせつつ治療を進めていく必要があると考えられた。」
その通りだと思います。

腟内射精障害の患者さん(カップル)の、医療機関へのfirst visitが「不妊屋」になっているケースは多々あります。というか、多分一番多いと思います。
しかも、まだ御本人さん達が「腟内射精障害」という状態すら知らないで困っているケースも非常に多いです。
そうした状況に対して
「性交渉が持てないんですか?じゃあAIHやりましょう。」
だけではもったいないじゃないですか。

小堀先生の御報告の
「16例中1例でしたが、自然妊娠が成立しました。」
ここがやっぱり性機能屋の究極の目標であり、不妊屋も見習わなければならないエンドポイントだと思うのです。

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