不育症(1):定義・頻度

2014年8月記

本ページの出典・引用元は、厚生労働科学研究費補助金「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」班により平成23年3月に発表された「厚労研究班の研究成果を基にした不育症管理に関する提言」、および、平成24年3月に発表された「反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル」です。

同研究班のHP、及び、出典・引用元の提言/マニュアルのリンク先は以下です。

以下、太字は上記提言/マニュアルからの引用、細字は本HP管理人の個人的記載事項という記載方式となっております。

言葉の定義

「妊娠22週」を境に「流産」と「早産」の区別をするのですが、その違いということです。

で、その「流産」を2回以上繰り返すことを「反復流産」、そのうちさらに3回以上繰り返した場合を「習慣流産」という用語を用いる、というわけです。

僕が研修医の頃は「習慣流産」(つまり3回流産)が精密検査の対象、と教わりましたが、世の傾向に則り、直近「反復流産」(つまり2回流産)も検査対象とすることが多くなってきていると思います。

で、「不育症」という用語ですが、

「妊娠はするけれど2回以上の流産・死産もしくは生後1週間以内に死亡する早期新生児死亡によって児が得られない場合」

ということですね。
つまり、「不育症」は必ずしも「流産」と限定しているわけでは無いわけで、「死産」+「早期新生児死亡」もその対象に含まれているわけです。

つまり、一番広い概念が「不育症」で、「不育症」の中に「反復流産」が入っていて、さらに「反復流産」のなかに「習慣流産」が入っている格好になるわけです。

生化学的妊娠

「生化学的妊娠」についてです。

過去には「化学妊娠」「化学流産」などの用語が用いられていたものの、現在の正式用語は「生化学的妊娠」である、と記載されています。
また、この生化学的妊娠は「流産回数には含めない」とされています。

そして、繰り返す「生化学的妊娠」に対しては、「現在の所国内外に明確な治療方針はない」とのことです。
つまり、不育症に含めるのかどうか?の結論が出ていないというわけです。
逆にいうと、「完全に無視してよい」というエビデンスもない、というわけですね。

不育症の頻度

つまり、「不育症」の定義に当てはまってしまう人は、かなり多く、全然珍しい状態ではない、ということですね。

不育症のリスク因子とその頻度

不育症のリスク因子として
  1. 夫婦染色体異常
  2. 子宮形態異常
  3. 内分泌異常
  4. 凝固異常
が挙げられる。

各々の頻度は
  • 子宮形態異常 7.8%
  • 甲状腺異常 6.8%
  • 夫婦いずれかの染色体異常 4.6%
  • 抗リン脂質抗体陽性 10.2%
  • 第Ⅻ因子欠乏症 7.2%
  • プロテインS欠乏症 7.4%
  • プロテインC欠乏症 0.2%
であり、残りの65.3%はリスク因子不明の流産であった。

まずもって、不育症の場合、「原因」という言葉を使わずに「リスク因子」という用語を用いましょう、と提案されています(「リスク因子」を有する場合でも、全員が不育症になるわけではないので)。
で、この「リスク因子」のスクリーニングを行っても、「リスク因子」が検出されるケースは35%程度で、65%はリスク因子が見当たらない、というわけです。

ではこれが悲観的な数字か?というと、そうではないようです。
研究班の先生方が確率的に計算した結果、「リスク因子不明の大半は偶発的流産と考えられます。」とのこと。
つまり、もちろん現況、全てが解決されたという状況ではないでしょうし、陽性だったリスク因子の全てが「原因である」というわけではないでしょうが、現在のスクリーニングで結構いい線いっている、というわけです。

よって、このマニュアルの検査項目を過不足なくしっかり行うことが重要で、その結果、リスク因子がはっきりしなかった場合には(偶発的である可能性が高いので)、「とりあえずやっとく」といった感じのアスピリンだの漢方だの根拠の乏しい治療に疑問を呈しているわけですね。

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