2014年9月記
本ページの出典・引用元は、厚生労働科学研究費補助金「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」班により平成23年3月に発表された「厚労研究班の研究成果を基にした不育症管理に関する提言」、および、平成24年3月に発表された「反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル」です。
同研究班のHP、及び、出典・引用元の提言/マニュアルのリンク先は以下です。
以下、太字は上記提言/マニュアルからの引用、細字は本HP管理人の個人的記載事項という記載方式となっております。
不育症関連の総説論文を読んでいるとよく見かける言葉に「tender loving care」というものがあります。
エルビス・プレスリーの歌を思い起こさせるような言葉ですね。
日本語に訳しにくいですが、直訳すると「優しく愛するケア」。
つまり、心地良く包み込むような、「守られている」と感じられるようなケア、ということでしょうね。
2006年のHuman Reproduction誌に、習慣性流産の総説論文が載っています。
このアブストラクトにこんな一文が載っています。
(最後から2番目の文章)
この論文では、1984年に発表された以下の論文が引用されています。
ここには、原因不明習慣性流産患者に対して出産前のカウンセリング+精神的なサポートを行うと86%が妊娠に成功したが、行わない場合は33%にとどまった、と報告されています。
つまり、そのメカニズムは未だに良くわかっていないのですが、生殖のシーンにおいてメンタル・コンディションが確実に何らかの作用をしているわけです。
脳から分泌されるホルモンにより生殖が支配されている点を考えると、精神状態(=中枢神経の状態)が生殖のシーンに影響を及ぼすのは当然なのかもしれません。
「新たな生命」は精神的に安定している母体を好むわけです。
「新たな生命」にとっては、当然その方が自らの成長に適しているわけでしょうから。
おなかに宿った胎児を妊婦さんが温かく包み込むようにケアするわけですが、さらにその妊婦さんを夫が、家族が、さらには医療関係者が、社会が温かく包み込むようにケアして、安定した/安心な胎内環境を提供するようにすることが大切、というわけです。
厚生労働科学研究費研究班の提言/マニュアルには以下のように記載されています。
今ではほぼ否定されていると思われますが、過去に、「抗凝固療法が体外受精反復不成功例の治療になるのではないか?」という発想がありました。
で、おそらく、その効果の程が検証されていた時期に当たるのであろう2003年に、なかなか面白い論文が発表されていますので、ご紹介してみたいと思います。
その論文は、2003年のfertility and sterilityに載っているこちら、
です。以下論旨。
ということでこの論文自体は、体外受精反復不成功例に抗リン脂質抗体やら抗核抗体をスクリーニングして、陽性だった場合に「ヘパリン+アスピリン」をやっても「生理食塩水+お砂糖」をやっても妊娠率は変わらない、つまり、「ヘパリン+アスピリン」は無効だ、ということを言いたい論文なわけです。
で、それはそれでいいのですが、おまけで非常に面白い考察がなされています。
つまり、「生理食塩水の注射+お砂糖の内服」をやった群でも、「何もしなかった群」に比べると有意差を持って妊娠率が上昇した、というわけです。
もちろんこれは「生理食塩水+お砂糖」の薬理効果であるわけではないわけです。
そうなんですね。これがtender loving careであり、そして、患者さんの「今回は今までと違って治療を受けている!」というpositive thinkingの結果なのでしょうね。
同様のことは本HPでもとりあげてきました。えっと、
です。
「『楽しく』『笑顔で』『前向きに』治療を受けていただく」ということがいかに重要か。
「患者さんをpositive thinkingにさせる」「その気にさせる」ということがいかに重要か。
そういうことなんだろうな、と思います。
そんなわけで、間違いなく赤ちゃんは何らかの方法で、「良好な精神状態の母体」を好んでいます。
「笑う門には福来る」という言葉があります。
多分そういうことです。
不妊患者さんにも、不育患者さんにも、そして妊婦さんにも、いや、そもそも病院に来る状況の方々全てに「tender loving care」を心がける必要があるわけです。