生殖内分泌の基礎の基礎


精子/排卵は脳が作る?

ここでは、生殖内分泌の超基本をお話ししたいと思います。
皆さんの精子/卵子(排卵)はどこ作られていますか?
そうですね。精巣/卵巣ですね。
では、どこ作らせていますか?

そうなんです。精子は精巣が自分で勝手に作っているわけではないんですね。排卵も卵巣が自分で勝手に卵胞を大きくして排卵しているわけではありません。
精巣に精子を作らせている/卵巣に卵胞を育てさせ排卵させているのは、実は脳です。

右の図の緑の矢印で示した部分が精子を作らせている/卵胞を育てさせ排卵させている司令塔になります。
間脳の視床下部と呼ばれている部分です。
(脳ですから、)ここにある特殊な神経細胞が全ての指揮を執っています。
この神経細胞はGnRHニューロンと呼ばれています。

GnRHニューロンが「精巣に精子を作らせよう/卵巣に卵胞を育てて排卵させよう」とする時には、ある物質を出して命令します。
その「ある物質」というのが、Gn-RHと呼ばれています。

Gn-RH=Gonadotropin-releasing hormoneで、日本語では「ゴナドトロピン放出ホルモン」と呼ばれています。
GnRHニューロンが出したGn-RHの命令を受け取るのは、図の青の矢印で示した部分になります。
脳下垂体と呼ばれています。
ちょうど僕らの目の奥あたりにあります。

(細かいことを言うと、下垂体は前葉と後葉があるのですが、Gn-RHを受け取るのは下垂体前葉にあるgonadotrope細胞という細胞です。)

命令は子請けへ、子請は孫請けへ

さて、そんな風にして中枢である視床下部のGnRHニューロンが出した命令(Gn-RH)を聞いたのが、下垂体前葉のgonadotrope細胞です。
この下垂体前葉のgonadotrope細胞はFSHLHと呼ばれる二つのホルモンを出します。
ちなみにFSHとLHをまとめてゴナドトロピンと呼びます

で、この下垂体前葉が分泌したゴナドトロピン(FSH/LH)が、血液の中をどんぶらこ~と流れて行って、精巣なり卵巣にたどり着いてようやく精巣は精子を作り、卵巣は卵胞を育て排卵させるわけです。

こんな風にドミノのように、あるいは親会社が命令を子請け、孫請けに出すような感じで生殖機能はコントロールされています。
そんな状況をよく視床下部 - 下垂体 - 性腺(精巣/卵巣)系と呼んだりします。

そうなんですね。男性も女性もここまでは基本的に同じなわけです。

男性の場合

というわけで、どんぶらこ~と血液に乗って流れて来たFSHなりLHは精巣に何をさせるのでしょうか?

FSHの命令を受け取るのは精巣内のセルトリ細胞という細胞です。
イメージでいうと精子たちの「お守り」をする細胞です。
で、セルトリ細胞はFSHの命令が来ると、精子をどんどん作っていくわけです。

一方、LHの命令を受け取るのはこれも精巣内にあるライディッヒ細胞という細胞です。
この細胞は精子が作られている場所(精細管という管)の外側にいます。
で、ライディッヒ細胞はLHの命令が来ると、男性ホルモン(テストステロン)を作ります


こうして精巣は視床下部の命令を受けて精子だのテストステロンを作るわけですが、
「おれ、ちゃんと働いてるよ。」「だからそんなに命令しないで。」
というのを視床下部にアピールしたいのですね。
アピールしないと、どんどんどんどんFSHだのLHの命令が来て過労状態になってしまうからです。
このためにセルトリ細胞はインヒビンBというホルモンも作っています。

で、セルトリ細胞はインヒビンBで、ライディッヒ細胞はテストステロンで、その仕事っぷりを視床下部のGnRHニューロン様にお知らせします(細かくは多少嘘がありますが、大きくは間違ってないのでこのままにさせてください)。

すると、GnRHニューロンは安心して、その手綱を緩めるわけですね。
こうした機構をネガティブ・フィードバックと呼んでいます。

女性の場合

女性の場合も基本的には同じですが、「月経周期」があるのがすこしややこしいですね。 でご紹介した通り、生理中の卵巣は右のように胞状卵胞という小さいつぶが見えるのでした。
FSHの命令を受け取ると、このつぶが大きくなってきます。
で、卵胞が大きくなりました。
精巣がインヒビンBだのテストステロンだのを出して、視床下部のGnRHニューロン様に状況を知らせていたのと同じように、卵胞はエストラジオール(E2(女性ホルモン)というホルモンを分泌しGnRHニューロンに状況を知らせています。

で、ここからが女性特有の現象が起こります。
そんなわけで、卵胞は自らの大きさを脳下垂体のGnRHニューロンに知らせるためにE2を分泌します。
一方の視床下部:GnRHニューロンは、
E2の濃度で、卵胞の状態を察知します。
で、GnRHニューロンが
「お、このE2濃度ということは、ボチボチ排卵させてもいいころだな?」
と判断すると、脳下垂体gonadotrope細胞に対して
「すっごい一杯LHを出せ!!!!!」
と命令するのです!
すると、脳下垂体gonadotrope細胞はそれはもう爆発的にLHを出します。
この現象をLHサージと呼びます。
で、このLHサージを受けると、卵巣では大きく育っていた卵胞が排卵するのですね。

蛇足ですが、薬局などで売っている「排卵日検査薬」は、このLHの爆発的分泌を尿中のLHで判断しています。

排卵が終わった卵巣では、卵胞を作っていた皮が残っています。
この皮が黄体と呼ばれる組織に変化していきます。

この黄体はエストロゲン+プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌するのですが、黄体が黄体ホルモンを分泌するのも、自分で勝手に出すわけではありません。
そうです。GnRHニューロンが下垂体gonadotrope細胞から出させたゴナドトロピン(主にLH)が黄体ホルモンを出させています

つまり、ゴナドトロピン(FSH/LH)は

といった感じで、月経周期全てをコントロールしているわけです。

生殖内分泌を理解するための最重要ポイント

そんな感じでおわかりいただけましたでしょうか。
精子(男性)も卵子(女性)も、実はほぼ同じシステムでコントロールされているわけです。
で、よりいろんな現象を理解していく上で知っておくといいことがあります。
それは、GnRHニューロンは、命令であるGn-RHをじわじわじわ~~~っと出しているわけではないということです。
ピュッ!と出してはしばらくお休み、またピュッと出してはしばらくお休み、といった感じで出しています。

ちょうど間欠泉のような感じですね。
これを「パルス状分泌」と呼んでいます。

で、GnRHニューロンはこの間欠泉(パルス)の頻度で下垂体のgonadotrope細胞に
「今はFSHを出せ!」
「今度はLHを出せ!」
「いや、どっちも出すな!」
と命令を使い分けています。
こんな感じです。
どちらもFilicoriら、J Clin Invest (73); 1638-1647, 1984より引用させていただきました。

ホルモンそのものはGn-RHではなくLHのパルスですが、結局同じことです。
10分おきに24時間ずっと採血して調べたそうです!凄い!

右が排卵後2日目だそうです。
24時間で大きく7回のパルスがありますね。
こちらは排卵後10日目だそうです。
つまり月経直前ですね。
24時間見てもほとんどパルスが起きていませんね。
結構ダイナミックに変化するでしょう?
こんな感じで、パルスの回数は月経周期でも変動しています。

ちなみに僕は、 論者なのですが、このパルス状分泌がその大きな理由なのです。

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