月経不順のメカニズム:体重減少性月経不順を例に


復習:月経周期はKiss1ニューロンが司っているのでした

本ページは、以下のページからの話の続きです。
まずは、こちらの内容を復習しておいてください。

ざっと復習しておくと、生殖機能(男性なら造精機能、女性なら月経周期)を司っている「真のラスボス(?)」は、間脳視床下部弓状核/前腹側室周囲核にあるKiss1ニューロンという神経細胞なのだろうと考えられている、というところまでお話してきました

Kiss1ニューロンが体の様々なステータスを常時モニタリングしていて、その情報を統合し、
「今は、生殖状態をどのようにコントロールするのがベストなのか?」
という判断を下していると考えられてきているわけです。

僕が勝手に「生殖中枢」と崇めるKiss1ニューロン様のご機嫌を損ねると・・・・、

というわけで、ここでは、体重減少性月経不順/無月経を例に、いかようにKiss1ニューロン様が反応を示されるのかを考えてみたいと思います。

Kiss1ニューロンは、「体脂肪量」を常時チェックしている!

Kiss1ニューロンの説明のところでもお借りしました、Oakley AE et al. Endocr Rev 30(6), 2009の図です。

よく見ると、赤いKiss1ニューロンが、体の色々なステータスをモニタリングしている様子が描かれております。
そのうち、本頁では、そんなわけで、左下の黄色いモヤモヤのところに注目します。
「Body fat」と書かれております。
その上に「Leptin」と書いてありますね。
「レプチン」と言います。
これです。
脂肪細胞は、ご存じの通り「脂肪の貯蔵庫」、すなわち「エネルギーの貯蔵庫」としての役割があるのですが、同時に様々な生理活性物質を分泌する「内分泌器官」であることが次第に明らかになってきています

脂肪組織が分泌する生理活性物質は、総称して「アディポサイトカイン」と呼ばれています。
これもいくつも知られているのですが、今回の話の「レプチン」も、脂肪が分泌する「アディポサイトカイン」の一つです。

オタッキーな話をすると(死語?)、ヒトのレプチンは167アミノ酸よりなる蛋白質で、そんなわけで、脂肪細胞より分泌される「アディポサイトカイン」の一つです。
そもそもの役割は、
「今、体にはこれぐらいの脂肪量があるよ」
というのを全身(主に脳)に伝達するのがお仕事だろうと考えられています。
で、結果、食欲や代謝をコントロールすることに役立っているわけですね。
難しい言葉でいうと、摂食促進因子の抑制/摂食抑制因子の促進
簡単にいうと、「もう、たんまりあるんだから、これ以上食べるな!」
というのがお仕事というわけです。

そんなレプチンをKiss1ニューロン様は常時監視なさっていらっしゃるというわけです。
なぜ?

生殖活動には、当然栄養状態が良好である必要があるわけです。
逆に栄養不良状態での生殖活動の結果は、その個体にとってみれば更なる栄養状態の悪化に繋がるわけですから、危機的状況をもたらしかねません。

つまり、生殖中枢であるKiss1ニューロンが、その個体の栄養状況をモニターするのは当然と言えば当然なわけです。

図を再確認しておきましょう。
「Body fat(脂肪)」から「Leptin(レプチン)」が出ており、赤の「Kiss1ニューロン」に+に、すなわち「活性化」させる様子が描かれております。
そのKiss1ニューロンは、GnRHニューロンの働きを促進させ、最終的に「Reproductive function(生殖機能)」が勢いよく押し上げられていることが描かれています。

そんなわけで、話の流れが読めたかと思います。
脂肪量はこのようにして、直接月経周期を作っているわけです。

体重減少性月経不順/無月経のメカニズム

そんなわけで、体重減少がなぜ月経不順/無月経に結び付くのか?ここまで来ると繋がると思います。

『痩せ(脂肪減少)』→レプチン↓→Kiss1ニューロン活性↓→GnRHニューロン活性↓→Gn-RHパルスの消失→ゴナドトロピン分泌↓→卵胞発育障害→月経不順/無月経

ですね。

冷静に考えれば、生体防御反応として当たり前です。
「私の体、飢餓状態だわ!」
「生殖なんかして、消費できる状態じゃないわ!」
「妊娠なんてとんでもない!」
「排卵止めなきゃ!」
ね?非常に理にかなった反応です
いやはや、人体、やっぱりよくできております。
自然ってすごいなぁ。
神様はすごいなぁ。

そうすると、もしかして、精子も???

・・・でしょうね。多分。
女性のKiss1ニューロンが反応して、男性のKiss1ニューロンが反応しないと考えるほうが不自然ですよね。

そんなわけで、体重コントロールがいかに大事か。
太っているのはもちろんなのですが、やっぱり痩せもダメでしょうね。
適正にコントロールすべきなのでしょう。
これは、何も女性にだけ言える話ではなく、男性でも当然当てはまることでしょうね。


そんなわけで本ページでは、体重減少(痩せ)を中心にKiss1ニューロンの生殖中枢としての仕事っぷりを確認してきました。
女性の場合、
月経周期は、「体調が悪いから」不順になるのではなく、「体調が悪い」事に正常に反応して、ワケあって不順な状態にしているのだ!
と、僕は常々口癖のように訴えているのですが、
その理由はこんな感じなのです。

で、男性側にも当てはまっていると思われる例が見受けられます。

もちろん全員がそうだ、というわけではありません。
でも、
何がKiss1ニューロン様のご機嫌を損ねているのか?
という生殖内分泌学的視点で状況を見直してみると、いい方向に向かう一助になるのかもしれません。

これが「内分泌屋」の醍醐味でもあります。


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