排卵誘発剤の原理

2014/4記

このページでは、排卵誘発剤の原理、すなわち、なぜ排卵誘発剤を使うと「卵胞発育してくる/過排卵になる/(黄体機能が向上する)」のかの原理をご紹介してみたいと思います。

まずもって、基本中の基本、「卵胞はどのように大きくなっているのか?」を復習しておきましょう。 で解説済ですので、復習しておいてください。
そうでした。卵巣は自分で勝手に卵胞を大きくしているわけではないのでしたね。
卵胞を大きくしているのは「脳」。
いろいろあって、最終的には、「脳下垂体がゴナドトロピン(FSH/LH)を分泌して卵胞を大きくしている」のでした。

で、排卵誘発をするのは、最終的にこの「ゴナドトロピン(FSH/LH)」です。

のが、排卵誘発の原理です。
どう増やすか?
最も簡単なのが、「ゴナドトロピン(FSH/LH)そのものを補ってしまう」わけです。
このようなゴナドトロピンの補い方を、「外因性ゴナドトロピン」なんて呼ぶことがあります。
これが「注射の排卵誘発剤」の原理です。
一般的にはhMGと呼ばれていますが、「ゴナドトロピン(FSH/LH)そのもの」が注射になっています。
製造方法や、含まれているFSH/LHの比率でいくつかのパターンがあります。

他には、「何らかの形で、自身の下垂体に、より多くのゴナドトロピン(FSH/LH)を出してもらおう」という発想ができますね。
内因性にゴナドトロピンを出してもらおう」
というわけです。
これが、「内服の排卵誘発剤」の原理です。

とりあえずまとめると、

というわけです。

どのように下垂体にゴナドトロピンを出してもらうか?

こう聞くと、「注射の排卵誘発剤」の原理は単純ですが、「内服の排卵誘発剤」の原理はちょっとわかりにくいと思います。

普通そう思いますわな。
この原理が実によくよく考えられておりますし、この原理を理解すると、その排卵誘発剤の特徴/副作用がよくわかると思います。

脳は、「卵胞が育っていない」ことを把握してゴナドトロピンを分泌させています。
逆に、「卵胞が育ってきたら」ゴナドトロピンの分泌量を減らして卵胞発育をコントロールしています。

つまり、脳は、常に、今自分自身の卵巣内の卵胞発育の状況をモニタリングしているのでした。
どのように「自身の卵巣内の状況を把握するのか?」というと、それが、「エストラジオール」というホルモンなのでしたね。

卵胞が発育してくると、「エストラジオール」というホルモンを分泌してくるのでした。
このホルモンは、卵胞が

「私の今の大きさはこのぐらいなのよ!」

と、全身の臓器に知らしめるために分泌しているのでした。

卵胞が無い時(月経中)=エストラジオールも低い
→脳がそれを察知
→下垂体からゴナドトロピン(FSH/LH)を出す
→卵胞が育ち始める

卵胞が発育したら=エストラジオールが高くなる
→脳がそれを察知
→下垂体からゴナドトロピン(FSH/LH)の分泌を減らす
→卵胞発育がコントロールされる

といった感じになっていたのでした。
このような機構を「ネガティブフィードバック」と呼ぶのでした。

では、脳に内因性にゴナドトロピンを沢山出してもらうためにはどうすればいいでしょうか?
そうですね。

卵胞が育っても、エストロゲンを脳が察知しなければいい

わけです。
すると、脳はエストロゲンで判断していますから、

「あれ?おかしいな。エストロゲンが低いぞ。」
「卵胞が育っていないな?」
「じゃあ、ゴナドトロピンをたくさん出して卵胞を育てなくっちゃ」

となるわけです。
つまり、

何らかの形で、脳に「エストロゲンが低い」と思わせれば、卵胞が育っていてもゴナドトロピンを大量に分泌してくれる

わけです。
脳をだますわけですわな。

実際には「クロミフェン」というのと「アロマターゼ阻害剤(レトロゾール/アナストロゾール)」という内服薬が広く使われているのですが、これがまた上手く脳をだまします。

クロミフェンの原理

例として、卵胞が
  • 「私は今、エストラジオールで300の大きさよ!」
と全身臓器に知らせたいと仮定しましょう。
で、脳をだますわけです。

クロミフェンは「抗エストロゲン剤」と呼ばれています。
どうするか?というと、脳のセンサーの方を誤魔化します
  • 「エストロゲンの感度を悪くする」
わけです。

卵胞は一生懸命300のエストラジオールを作っています。
実際に採血すると、エストラジオールは300と出ます
でも、脳はクロミフェンのせいで、センサーの感度が悪くなっています
150と錯覚してしまいました
  • 「何だ。卵胞はまだ150の大きさなのか。じゃあ、もっとゴナドトロピンを出さなきゃ。」
といった感じです。

ポイントは、
  • エストラジオールはちゃんと300出ているのに、それを感じ取る全身臓器が150としか感じ取ることが出来ない
というわけです。

ちなみに、クロミフェンの副作用として、子宮内膜が薄くなり、頸管粘液が出にくくなるのですが、これも、同じ原理です。
卵胞は

と一生懸命声を張り上げているのに、子宮内膜も子宮頸管も

となるわけですね。

アロマターゼ阻害剤(レトロゾール/アナストロゾール)の原理

まず、「アロマターゼ」という酵素について説明しておきます。

男性ホルモン(アンドロゲン~代表例:テストステロン)も、女性ホルモン(エストロゲン~代表例:エストラジオール)もぜ~んぶまとめて「性ステロイドホルモン」と呼びます。
で、性ステロイドホルモンの原材料は、悪名高き(?)コレステロールなのですね。
生体は、コレステロールからテストステロンもエストラジオールもプロゲステロンも作り上げております。

ちなみに医学生はこの代謝経路を暗記します。僕もその昔しました。
その合成経路の図を見るたびに、未だに当時の悪夢が思い起こされます(笑)。

これをすっごい大雑把に大胆に省略すると、

です。
で、このステップの

の変換を行う酵素が「アロマターゼ」です。

「アロマターゼ」の「アロマ」は「香り」の「アロマ」と同じです。
高校の化学で「芳香族」というのを習いませんでした?「ベンゼン環」とかあの辺の話です。
(皆さんも「あの頃」の悪夢を思い起こしますか?(笑))

大雑把にいうと、男性ホルモンの一部をベンゼン環にすると女性ホルモンになるのですが、この反応を「芳香化」と言います。
で、「芳香化酵素=英語でアロマターゼ」なわけですね。

即ち、アロマターゼは、男性ホルモンを女性ホルモンに変換する酵素、というわけです。
テストステロンならエストラジオールに変換させます。

「アロマターゼ阻害剤」は、このアロマターゼという酵素を阻害、つまり邪魔をするわけです。
どうなります?
男性ホルモンを女性ホルモンに変換できないわけですね。
テストステロンをエストラジオールに変換できない。
結果、エストラジオールを作りたくても作れなくなっちゃうわけです。

先ほどと同様に、卵胞が300のエストラジオールを作りたい、と仮定しましょう。

作りたい。作りたいのに、作るための酵素が働いてくれないから作れない。
一生懸命頑張ったけど、結局150しか作れませんでした。

そんな感じで、今度は卵胞は150しか作れません。
なので実際に採血すると、エストラジオールは150と出ます
今度は脳のセンサーの感度は正常です。
普通に150と判断します。
実際は、卵胞の大きさは300なのに
  • 「何だ。卵胞はまだ150の大きさなのか。じゃあ、もっとゴナドトロピンを出さなきゃ。」
となるわけです。

ポイントは、
  • そもそもエストラジオールが150しか出ていないわけです。
  • 一方、それを感じ取る全身臓器のセンサー異常はないので、普通に150と捉える

わけです。

こんな感じで、どちらも300の卵胞があるのに、脳に「150である」とだますことに成功しました。
これがクロミフェンとアロマターゼ阻害剤の排卵誘発剤としての作用機序です。

なお、300だの150だのの数字は適当です。
あしからず。

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