妊孕能を自己防衛するための10箇条
生活習慣を見直そう!
様々な生活習慣が癖のように身について、その生活習慣がその人の人生(運命)をも左右することはすでに周知の事実だと思います。
食生活、体重コントロール、喫煙の有無に始まり、住環境、衣類、果ては性的活動度まで。
これら生活習慣は、もちろん妊孕能(Reproductive Health)に少なからず影響を与えることは当然で、生殖医療現場もある意味「生活習慣病」の一端を拝見しているとも言えなくもないわけです。
ここでは、そんな個人個人の生活習慣がどのように妊孕能に影響している可能性があるのか?に焦点をあててみようかと思います。
元論文は、2013年のReprosuctive Biology and Endocrinology誌に掲載されたこちらです。
この論文の要旨を10箇条にサマリーしてみました。
(1)年齢を客観的に評価する~青春は思ったよりも短いらしい!
- 男性では、加齢とともにテストステロン濃度が低下し、精巣機能も低下することが知られています。
- 精液検査所見上の低下は35歳位から見られるようになり、40歳を超えると精子のDNA損傷が有意に上昇することがわかっています。
- 男性の年齢が45歳以上になると、そのカップルが妊娠成立するまでに要する時間が1年以上かかる確率が4.5倍に、2年以上かかってしまう確率は12.5倍になってしまうと報告されています。
- 女性では、加齢とともに妊娠までにかかる時間が長くなり、妊娠率、妊娠維持率(管理人注:要するに流産しない率)、総出生児数が低下する。
- 女性の年齢が上昇すると、受精卵の染色体異常率が上昇し、結果、着床障害・流産などの原因となると推定されている。
とのことです。
確かに20歳の時の僕と今の僕で何がそんなに違うのか?自分ではよくわかりません。
自覚的には、今の僕が仮に女子高生と手をつないで街を歩いていても何ら違和感はない、と思っているのですが、周りからは「絶対お巡りさんのお世話になる」と言われてしまいます。
なんか納得いかないのですが、客観的にはそういうことなのだそうです。
(2)体重をコントロールする~BMIは生活習慣の成績表
- 男性では、過剰な活性酸素を除去する働きのある「抗酸化物質」が有用とされていて、炭水化物、食物繊維、葉酸、リコピンなどに富んだ食事、特に野菜や果物の摂取が精子の質を改善するのに効果があるとされている。
- 肥満だと精液検査で質が悪い状態に入る頻度が上昇する。また精子濃度・運動率が低下し、精子DNA損傷が増加する。
- メタボリック症候群では、高率にEDが合併する。
- 一方、痩せの群ではBMIが正常の群に比べ精子濃度が低い傾向がある。
- 女性では、動物性蛋白質を過剰摂取している群、トランス脂肪酸を多く摂取する群で排卵障害が多い傾向が見られる。
- 肥満女性では、妊娠成立までに要する時間が長くなる傾向があり、流産率が上昇する。この流産率の上昇は受精卵の染色体異常によるものではないことが知られており、どうやら「内膜の受容性」の変化は主要因のようだ。
- 一方、BMIが17以下になると排卵障害の率が増し、また、痩せの女性は妊娠しても早産のリスクが高い。
というわけで、男女ともに肥満も痩せもダメ。男性では特に抗酸化作用(ビタミンC/Eなど)に富んだ食品の摂食習慣が良い、というわけです。
栄養学の教科書を読んでみると、こんな言葉が書いてありました。
「BMIが適切な範囲内であれば、摂取量は適切と判断してよい」
世の中には、特段意識せずとも自動的に適正なBMIになっている人もいれば、かなり日常生活に注意を払わないと適正なBMIをコントロールできない人もいます。
かく言う僕も典型的な後者で、ちょっと気を抜くとすぐに適正範囲を超えてしまいます(上の方に)。
「BMIはその人の生活習慣の成績表」
という言葉を聞いたことがあります。(残念ながら)正論だと思います。
(3)運動はする。でも適度に。~自転車は将来の楽しみにとっておきましょう!
- 適度の運動は男性には好影響のようだ。
- 週3回以上、1回1時間以上の運動をする男性が精液検査所見が特にいいようだ。
- しかしながら、クルーガーテストでの良好形態率は中等度の運動群で15.2%だったのに対し、競技スポーツ群で9.7%、エリートアスリートで4.7%であった。
- 週に5時間以上自転車の乗る群は精子濃度・総運動精子数で減少が見られた。
- 肥満女性での運動は効果があるようだ。しかしながら過度の運動は逆効果であることが知られている。
- 日常摂取するエネルギーより消費エネルギーの方が多いと視床下部機能不全となり、GnRHパルスが減少し、月経不順となる。
- どのBMIにおいても中等度の運動は好結果をもたらすようだ。
とのことです。運動は行ったほうがいいのは当然としても、そんなわけでやり過ぎは禁忌です。
世の中健康ブームで、何かに取り付かれたかのように走ったり山に登ったりと皆さん熱心ですが。
僕らは「中等度の運動」を目指しましょう。
あと有名なのが男性の自転車ですね。
確かに自転車、楽しいのですが、将来の楽しみにとっておいたほうがいいのかもしれませんね。
(4)ストレスをためない~笑う門には福来る
- そもそも「不妊である」ということ自体が周囲からのプレッシャー・検査・診断・治療・経済的理由などによりストレスになる。
- 男性では、人生におけるストレスが不妊治療を受ける前に2回以上あると、精子濃度・運動率・正常形態率が低下するようだ。
- ストレスや抑うつはLHパルスを低下させ、テストステロンを減少させ、精巣機能を低下させ、造精機能に影響が及び、精液検査所見上変化が現れると考えられている。
- ストレスは不妊であると診断され、定期受診を指示されたり、IVFで妊娠しなかった場合にも増す。
- 不妊治療のクリニックに来る男性の10%は不安神経症やうつ病の診断基準に当てはまるとする報告もある。
- 女性では、週32時間位以上働く群 v.s. 16~32時間勤務群で比較すると、32時間以上群で妊娠成立までに時間がよりかかることが報告されている。
- 不妊治療のクリニックに来る女性は、30%が不安神経症やうつの状態であり、その理由のうちの一つは不妊であるという診断と治療によるものである。
- 認知行動療法群 v.s. 行わない群では認知行動療法群の方が妊娠率が高かった。
- おそらくこういった現象はストレスホルモンにより説明が付きそうだ。
とのことです。
では、皆さん自己防衛としてできることと言えば・・・、まず、「笑う」こと。これが好結果を生んだという報告も実際にあります。
あとは、効果のほどは承知していませんが、確かに心理療法系はいいのかも知れませんね。
ストレスと言えば、・・・(あまりエビデンスないので明言は控えておきます。ググってください。)
(5)喫煙~わかっちゃいるけど・・・
- タバコの煙には4000種類以上の化学物質が含まれており、そもそも健康に問題があることは論じるまでもない。
- 男性の場合、非喫煙者に比べて喫煙者、または喫煙既往者は妊孕力が低下している。
- 喫煙者では、総精子数・精子濃度・運動率・正常形態率・精液量・受精能が低下していることが報告されている。
- 内分泌機能も影響を受け、FSH/LHが上昇し、テストステロンが減少することが報告されている。
- 女性では、そもそも喫煙群では、非喫煙群にくらべ不妊になる確率が高い。
- 喫煙女性の妊孕能低下は卵巣機能と卵巣予備能の低下に起因するようだ。また、喫煙群では受精率も低下している。
- 内分泌機能も低下し、その結果月経障害を引き起こす。
- また、タバコに含まれる化学物質は卵管のpick-up能・受精卵輸送能も低下させるようで、子宮外妊娠率が上昇したり、妊娠成立までの期間が延長したりする。
- ドナー卵子周期で検討しても、喫煙本数が増えれば着床率が低下することが報告されている。
ま、ここは多くのコメントは不要でしょう。
(6)飲酒~アルコールにも風当たりは強い!
- 男性では、アルコールの消費は精巣萎縮・リビドー減退・精子数減少などのネガティブな効果との関連が報告されている。
- アルコールと精液量には相関関係が認められている。
- アルコール中毒者では、奇形精子症・乏精子症の割合が多い。
- アルコールはどうやら精子形態率・精子運動率にも大きな影響を与えるようだ。
- 女性では、多量飲酒者は中等量飲酒者に比べ、中等量飲酒者は少量飲酒者に比べ不妊である割合が多くなる。
- 二日酔いになるほど飲酒する女性では不妊である割合が多い。
そんなわけで、アルコールにも結構風当りは強いですね。
(7)カフェイン~女性は注意。男性は?
- カフェインは女性の妊孕能にネガティブに影響するようだ。
- 特に一日500mg以上摂取する場合、妊娠までに要する時間に9.5か月以上の開きが出る。
- 最近では流産・死産との関連も疑われていて、一日100mg以上のカフェインを消費する女性は流産率が上昇する。
- 一日500mg以上のカフェイン消費者の自然流産は染色体異常に起因するものではないことがわかっており、カフェインによる未知のメカニズムによるものなのだろう。
ということで、女性には色々厳しいことが書かれております。
では男性にはどうなのか?ということで調べてみると、どうやら精子という意味では、あまりカフェインは悪者扱いはされていないようです。
(8)性行動~思わぬ落とし穴
- コンドーム使用習慣・経口避妊薬使用既往が、その後の妊孕能温存に有効であるとする報告は多い。
- ある報告によると、妊娠を考えてから実際妊娠成立するまでにかかる時間は、コンドーム使用習慣者が最も短く、次いで経口避妊薬使用者、最も長いのがコンドームも経口避妊薬も使用しなかったケースとの報告がある。
- これらの理由として、コンドームは性行為感染症予防効果が、経口避妊薬は子宮内膜症/骨盤腹膜炎予防効果があるものと推察されている。
- 性交時に腟の乾燥・痛みに対して潤滑剤を使用しているカップルは多い。
- 市販されている潤滑剤についての調査では、精子運動率低下や精子DNA損傷の報告がある。
- 他にもオリーブオイル・サラダ油・あるいは唾などの使用もあるが、これらあ精子機能に悪影響を及ぼすことが明らかとなっている。
ということで、今までの性行動時の習慣と、現在の習慣ともに妊孕能に与える影響があるようです。
(9)衣服・温浴・携帯電話~携帯は胸ポケットで!
- 携帯電話に使用される高周波電磁波の生殖能への影響を懸念する報告が年々増加している。
- ある研究では、携帯電話をベルトの高さやヒップラインで持ち歩く人は精子運動率が有意に低下していたという報告がある。
- 男性が選ぶ衣類はReproductive Healthに影響するかもしれない。陰嚢温度の上昇が精子形成・精液検査所見に悪影響を及ぼすという指摘があるからだ。
- その観点からピッタリとフィットするタイプの下着が本当に陰嚢温度を上昇させ、精液検査所見に影響するのかについて長いこと議論されている。
- 現在のところ下着が陰嚢温度上昇に影響するという報告もあれば、逆に全く認められないとする報告もある。
- 高温が精子に与える影響面から、温浴・ジャグジー・サウナも悪影響になるのではないか?という発想に基づいての検討がなされている。
- 温浴が精子に与える影響があるとする報告もあるが、不妊に関連していると結論するには未だにエビデンスが不足しているという状況である。
ですね。
事の真意は別としても、携帯を持ち歩くときの習慣を改めるぐらいはそんなに難しい話ではないわけで、それぐらいは修正してもいいのではないでしょうかね。
で、「下着はトランクス」「熱い風呂・サウナは避ける」というのは、発想はわからなくはないがエビデンスレベルとしてはまだまだ低いようなので、推奨というレベルではないようです。
なので、この辺を強制して、逆にストレスになってしまうようだと本末転倒かもしれませんね。
無理の無い範囲で上手にコントロールするのが吉のような気がします。
(10)引っ越し時の注意!~生産農家の畑の隣は禁忌!
- 農業地域や温室で働いている人は農薬に注意。精液検査所見の悪化につながる可能性がある。
ま、これは不動産選択時の禁忌としてよく知られていることで、隣でバンバン農薬まいているところで農薬汚染を受けずに生活せよ、と言われても無理なのは自明ですね。
リモコンの飛行機かなんかで農薬散布するシーンをテレビで見たことありますが・・・・。ねぇ。