「何かできることはありますか?」を大真面目に考察してみる

2012年10月記

不妊治療にあたっていると
「妊娠率を上げるために何かできること・しておくことはありますか?」
という質問をよく聞きます。
はて、特に根拠のある行為があるのでしょうか?
「安静」なんてよく聞きますが、ET後の安静はほぼ否定されていたと思いますし。

ということで、今回は「妊娠率を上げるために患者さんたちができること」を大真面目に検討してみようかと思います。
一応、真面目な医学論文になっているものを取り上げますが、これらが本当にエビデンスとして取り上げられるレベルのものかどうかは知りません
「信じるも八卦」か「信じるものは救われる」か?

ART周期でもセックス(腟内射精)する

性交渉による妊娠とART妊娠で決定的に違う点の一つに「精子が女性生殖管内を通過しない」ということは、実はよく言われる(た?)ことです。
ちなみに古くからハムスターなどでは、精液(というか精漿)に暴露されることで、胚の発達が良くなったり着床状況がよくなることは有名だそうです(J Reprod Fertil 84(1):341-)
では、「ヒト」はどうなんでしょうか?
少し古い論文なのですが、これが大真面目に検討された論文があります。
しかも天下のHuman Reproductionに載っています。
リンクは

論旨はというと、ART周期で、ET周辺で腟内射精をした群と控えた群とに分けて検討。
妊娠率は腟内射精をした群:23.6%、控えた群:21.2%で有意差なし。
しかしながらETした受精卵が妊娠6~8週まで「生き残った」割合が腟内射精をした群で優位に高かった。
ということです。
彼らの言葉をそのまま借りると

This study is the first to indicate that intercourse during the peri-transfer period of an IVF cycle is beneficial to pregnancy outcome.
(本報告はIVF周期のET周辺期での性交渉が、妊娠結果に有益に働くという最初の報告だ)

といった感じの鼻息の荒らさです。

でも、流石に治療の妨げにならないように注意してくださいね。
「セックス」が治療の妨げになりそうなら、↓こちらはどうでしょう。

オーガズム(イクこと)がいいのかも?

よく、都市伝説的に「イクと男の子、イかないと女の子」とかいう、いかにも胡散臭い話がありますが、そういうレベルの話ではありません。
確かにAIH以上の治療行為では(意識しないと)「オーガズムの無い妊娠」ということになります。
「オーガズムが妊娠に関与するのか?」
これまた大真面目に検討した論文が、これまた天下のHuman Reproductionに載っています。
しかも2012年、ホヤホヤです。
また実験内容がリアルすぎて凄いです。
リンクは

で、この先生たちは何をしたかというと、
女性に「オーガズムを感じるセックス」をしてもらう
→その後ひたすら採血を繰り返して、血中プロラクチンの濃度を計測する
ということをして、「何もしない」v.s.「セックスでイッた」で、その後のプロラクチン分泌に違いがあるのかを調べています。

サンプルは7人
19:00前後から30分以内のセックスをしてもらう
この間に全ての女性は1回か2回オーガズムを感じている
その後、21時、23時、3時、7時、9時、11時、13時、15時、17時、19時、21時、23時、3時と採血を繰り返す

だそうです。すごい迷惑な実験です。

で、結果的に、セックス終了直後の21時の採血では、何もしていない群に比べ、血中プロラクチン濃度が300%増加
しかも、その効果は翌日のお昼まで続き、100%増加
していたそうです。

プロラクチンの作用機序は知られているだけでも300くらいあって、子宮局所では着床促進に働くので、
オーガズムを感じる→プロラクチンが分泌させる→着床促進に働く
という方向でこの先生たちは論じていらっしゃいます。

オーガズムしかり、たとえは「初恋で胸がドキドキ」なんてシーンもしかり、脳内でドーパミンが増えるのは有名ですが、確かにドーパミンはプロラクチン分泌促進作用がありますもんね。
有り得ない話ではないかもしれません。
本論文では、この先生たちは、こんなことも書いています。
「プロラクチンはセックス後の『satiation hormone(満足ホルモン)』なのかもしれない」

この論文の結論はこちら
The role of a longer lasting change in the PRL secretory rhythm induced by intercourse may be for keeping the PRL concentration higher from the moment of fertilization until PRL synthesis and secretion is established in the endometrium, around Day 20–24 (mid-secretory phase) of the menstrual cycle.
(性交渉によって誘発された長時間に渡るプロラクチン分泌の役割は、黄体期中期に子宮内膜が自力でプロラクチンのパラクライン系が確立するまでの間、血中プロラクチンを高値に保ち続けるためのものなのかも知れない。)

だそうです。

なので、「適切な時期にオーガズムに達すること」は、着床率を上げるのに有効に働くのかも知れません。
AIH以上の治療では、精子は受精行為に必要ですし、性交渉が持てないシーンも多いのかも知れませんね。
でも、大真面目な話、
『排卵の時期に合わせて(露骨な表現で本当に申し訳ないのですが、いわゆる)オナニーでイッておく』
というのは、冗談ではなく、ありなのかも知れません(保証はしません)。

笑う(排卵後着床前にお笑いを見に行く)

「ストレスは避けたほうがいいのでしょうか?」
という質問もよく聞きますよね。
「ストレス」というのが、なかなか客観的に数値化できないので何とも言い難いのですが、「ストレス」により、内分泌環境が変化を受けるという構図は十分に考えられると思います。

こちらに、そう言った内容を検討した論文が出ています。
これまた天下のfertility and sterilityで、リンクは、

この先生たちの病院には2週間に1回、お笑いの人が訪れてくれて、ET(胚移植)後の人を楽しませてくれるという日があるのだそうです。
演目は「ジョーク」「トリック」「マジック」など
ET後の安静時間の12~15分、このサービスを受けたそうです。
で、この日にたまたまETを受けた人達と、そうでない人達で妊娠成績を比べたそうです。
結果はというと

お笑い群:妊娠率36.4%
コントロール群:妊娠率20.2%
と明らかな有意差で(p=0.008だって!凄い!)妊娠率がいいそうです。

すごいですね。ホンの15分ですよ。
こりゃ、皆さん、ET直後にお笑いに脚を運ばにゃいけないんじゃないですか?
もちろんタイミング、AIHでも、排卵日の3~5日後位に笑えばいいわけです。
「笑う門には福きたる」
は科学的に証明される日も近いかも!!


とりあえずこんな感じです。
信じるも八卦かもしれませんが、「お笑い」は別としても、無料ですしね。試してみてはいかがでしょう?

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