黄体補充がいるのかどうか?頭を使って考えよう!

2014/2記

黄体補充の「必要/不要」はちょっと考えれば判断可能

黄体機能不全+黄体補充について、本HPで解説させていただいている内容は、

です。
各々、以下のリンク先に解説してありますので、ご参照ください。

不妊治療の世界、このようにロクなエビデンスもなく、慣例的・風習的に行われていることが非常に多い。
先輩たちがやってきたことをそのまま鵜呑みにして、大脳皮質を介さずに、脊髄レベルで判断されていることが多いわけです。
それも無害ならまだいいわけですが、時には有害なこともあるわけで。
悔しいわけです。

で、本ページでは、どんな場合なら黄体補充を行ったほうがいいのか?についてちゃんと「大脳皮質」レベルで考えてみようかと思います。
と言っても、そんなに難しいことをするわけではありません。
「高校生物レベルの知識+α」で十分理解可能だと思います。

読む論文は、以下の2本です。

黄体補充は「hMG-AIH」では有効だが、「クロミフェン-AIH」では無効

各々の論文の論旨を箇条書きにします。

【Fertil Steril 2013】

【J Assist Reprod Genet 2014】

ということで、どちらの論文も同じ結果になっています。
つまり、「排卵誘発-AIH」を行う場合、
排卵誘発をhMGで行うと黄体補充を行ったほうが妊娠率が高く、排卵誘発をクロミフェンで行うと黄体補充を行っても妊娠率は変わらない
というわけです。

なぜこうなるか?この理屈わかりますか?

視床下部のGnRHパルスが減弱していれば、黄体補充が有効になる!GnRHパルスが正常または亢進なら、黄体補充は無効。

答えを表題に書いちゃいました。
解説します。

黄体ホルモンの分泌は、黄体が自分で勝手に行っているのではなく、脳下垂体前葉から分泌されるゴナドトロピン(FSH/LH)の命令に従って分泌されるのでした。

で、さらに、脳下垂体前葉から分泌されるゴナドトロピン(FSH/LH)は、視床下部に存在する「GnRHニューロン」が分泌するGnRHの命令に従って分泌されるのでした。

で、さらに、「GnRHニューロン」から分泌されるGnRHは・・・・
と繋がるのですが、今回はややこしいのでこの上流の話は抜きで解説します。

視床下部に存在する「GnRHニューロン」が分泌するGnRHは、もう何度も解説したがごとく、じわじわ~~っと連続的に分泌されているわけでは無いわけですね。
「ピュッ」と出てはしばらくお休み、また「ピュッ」と出てはしばらくお休みといった感じ。
ちょうど「間欠泉」みたいな感じで分泌されている。
これを「パルス状分泌」と呼ぶのでした。

で、GnRHがパルス状に命令を送ってくるので、下垂体からのゴナドトロピン(FSH/LH)も「パルス状」に出る。
で、ゴナドトロピン(FSH/LH)がパルス状に命令を送ってくるので、黄体からのプロゲステロンも「パルス状」に出る。

といった構図になっているのでした。
なので、黄体からのプロゲステロンの分泌も、「じわじわ~~っ」と連続的に分泌されているわけでは無かったわけです。

右の図ご覧ください。
本HPで何度か使わせていただいているデーターです。

黄体期8日目のLHとプロゲステロンの分泌を10分おきに24時間ひたすら計りつづけたそうです!(えらい迷惑な実験です!)
上がLH、下がプロゲステロンだそうです。
この方の場合、LHのパルス(間欠泉)は24時間で5回起こっていますかね。
で、プロゲステロンの分泌もLHに引きずられてえらく変動していますね。
プロゲステロンの変動は、一日のうち、最小は10を切ってますね。5に近いぐらいですか?最高は35位ですかね。
そうすると、ざっと7倍変動しているわけですね。
そんなわけなので、一番最初に書いた通り、 わけです。
ワンポイントで、仮に10以下だったとしても、この人のようにその日の別の時間には35まで上がるわけです。
なので、本当の意味での「黄体機能不全」というのは、ワンポイントのプロゲステロン値では物は言えるはずもなく、「LHのパルス状分泌がきちんと起こっているか?」ということです。
つまりは、「GnRHニューロンはきちんとパルス状にGnRHを分泌しているか?」ということです。

つまり、本当の本当に「自分が黄体機能不全かどうかを知りたい!」というのなら、この論文の被験者ばりのことをやらないとわからないわけです。
いや、仮にやっても、多分わからないでしょうね。
「パルス状分泌」がどの程度まで減弱すると着床障害になるのかのデーターを得るところから入っていかないといけないわけですし。
かつ、同じプロゲステロン濃度でも、内膜の感受性も万人同じじゃないでしょうしね。

そんなわけで、黄体期中期にたった一回黄体ホルモンを採血することが、いかに無力な検査か、ということがおわかりいただけると思います。

で、話の続きです。
「どんな人が黄体補充をおこなったら利益が出るのか?」
という問いでした。
そんなわけで、「黄体期にワンポイントで黄体ホルモンを採血してたまたまその値が低かった人」というのは流石にね・・・。
で、真のターゲットは、ズバリ!、
「GnRHニューロンがきちんとパルス状にGnRHを分泌していないと思われる人!」
ということになりませんか?

GnRHパルスは、hMGではネガティブフィードバックで減弱している。だがら黄体補充が有効になる。

今までの流れを復習しておくと、

ということです。

では、逆に「GnRHニューロンがきちんと(パルス状に)GnRHを分泌している(できている)状態」とはどんな感じなのでしょう?
要するに、逆に「あなたは黄体機能不全はありません」と直接証明する方法はあるのでしょうか?
これは、「『黄体機能不全である』と証明する方法はない」の裏返しになるわけで、多分不可能でしょうね。
但し、間接的に何となく推定は出来なくはないです。
それは、「卵胞発育具合」です。
脳下垂体前葉からのゴナドトロピン(FSH/LH)分泌は

わけです。
つまり、時期こそ違えど、

卵胞が順調に発育している
→「それはつまり、(卵胞期に)ゴナドトロピンがまっとうに分泌されている証拠、つまりはGnRHニューロンはきちんとパルス状にGnRHが分泌できている証拠
(もっと言うと、GnRHニューロンが健全にGnRHを分泌できる健全な体内環境が整っている証拠)
→「ということは、時期こそ違えど、黄体期にもGnRHニューロンはきちんとパルス状にGnRHを分泌できると考えるほうが自然
→「よって黄体ホルモン分泌は正常になるはずでは?」


と考えるわけです。
確かに間接的にはなってしまうのですが、思うに、これ以上に黄体機能を推測できる方法はないと思うのです。
(少なくとも黄体期にE2/Pをワンポイント採血する方法よりは現実的だと思います。)

つまり、自然周期で

と考えるわけです。
だから、健全な自然周期で黄体補充をやっても妊娠率が上昇するというエビデンスが出ないわけです。
だって、足りているんですもん。

では、とりあえずのゴールである「hMG-AIH」では黄体補充により妊娠率が上昇するが、「CC-AIH」では黄体補充により妊娠率は上昇しないに行きましょう。
これは、「ネガティブ・フィードバック」を考えれば、当然ですね。

【hMGで排卵誘発をする】
→下垂体が正規に出すFSH/LH量以上にFSH/LHが供給される。
→当然予想以上に卵胞が育つ
→卵胞が出すエストロゲンが異常上昇する
→下垂体はこれ以上FSH/LHを分泌する必要がなくなる
→GnRHニューロンはGnRHを分泌しなくなる(ネガティブフィードバック)
→GnRHニューロンのGnRH分泌パルスが異常に減弱する
→黄体機能不全になる
→よって、黄体補充をしたほうが妊娠率が上昇する

【CCで排卵誘発をする】
→GnRHニューロンのエストロゲン感受性が鈍くなる
(注:本当はGnRHニューロンではないのですが、理解の都合上このように記載しておきます。)
→GnRHニューロンとしては、「もっと頑張って卵胞を育てなくては!」と反応し(これも一種のネガティブ・フィードバック)、GnRH分泌を促進する(GnRH分泌パルスが異常に増強される)
→下垂体からのFSH/LH分泌が増強される
→このまま黄体期に突入すると、むしろ黄体機能亢進状態になる
→よって黄体補充をしても、そもそも足りているので妊娠率は上昇しない


というわけです。
最初に紹介したfertility and sterilityの論文の考察もまさにその通りになっています。
もちろん英語ですが、コピペしておきます。

えっと、まずhMGの方から。

The effect of exogenous gonadotropines directly on the ovaries leads to increased serum E2 and negative feedback on the hypothalamic-pituitary-ovarian axis.
This ultimately may lead to aberrant LH pulsitility and P secretion from the CL.

Pはプロゲステロン、CLは黄体のことです。

CCの方は

Compared with the decrease in luteal LH concentrations in gonadotropin cycles, CC increases LH levels.
(中略)
The potential for CC treatment to increase CL function has led to its proposal as a treatment modality for patients with inadequate luteal phase endogeneous P secretion.
There is significant evidence to suggest that endogeneous CL function may be decreased in gonagotropin cycles and enhanced in CC cycles.
This may explain the findings of this meta-analysis that donadotropin IUI cycles may benefit from P support, whereas CC cycles do not.

おわかりいただけましたでしょうか?
難しかったですかね?
もし、よく理解できなかった、というようであれば、僕の説明力不足です。申し訳ありません。

ということで、まとめると、
「黄体機能不全」は「GnRHニューロンが健全にGnRHをパルス状に分泌できる健全な環境が整っているか?」という風に「大脳皮質」を使って悩むと、(不謹慎な表現で申し訳ないですが)これほど面白いことはなかなかないのです。

と五感も六感も使って悩むわけです。
名探偵コ○ンばりに(←内容良く知らないんですが。)
この醍醐味と言ったらもう・・・。ヤメラレマセン!

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