子宮筋腫核出術は腹腔鏡下で全てバラ色なのか?

時代的には「腹腔鏡下手術」がどんどん取り入れられています。
実際に僕も腹腔鏡下手術を数多く執刀させていただいております。
傷は小さい、痛みは軽い、入院日数は短い、社会復帰は早い etc etc
何もかもバラ色です!・・・なわけないですわな。

実は、同じ腹腔鏡の手術でも、卵巣嚢腫を手術するのと子宮筋腫を手術(核出)するのとでは、一つ高い壁があります。
子宮筋腫の核出術では「子宮の筋層を縫う」という手技が必要です。
この「縫う」という手技、手でやる分にはもちろん問題にならないのですが、腹腔鏡で「縫う」のは、実は血のにじむようなトレーニングが要ります
僕もその昔、暇さえあれば机上で腹腔鏡用の鉗子を両手に持って「縫う」練習をひたすらやりました。
それこそ腱鞘炎になりそうな勢いで。
そこまでやっても、正直、「手」で「縫う」のと同じ精度で「腹腔鏡」で「縫える」か?といわれると・・・未だに胸を張って答えられません。

この「子宮の筋肉を縫う」という操作、何に関与するのかというと、考えてもらえば簡単でしょう。「子宮の筋肉の強度」に関与します。
「子宮の筋肉の強度」は何に関与するのか?というと、普段はあまり問題になりません。
問題になるのは、そう、「妊娠時」です。
子宮筋腫核出術をした後の妊娠では子宮の筋肉の強度が弱くなり、妊娠中に「裂ける」ことがあるとされています。
(「されている」と表現したのは、実は僕は今まで子宮筋腫核出術後の子宮破裂例は診たことがありません。帝王切開後は何度か診たことがあります。)
これを「子宮破裂」と呼びます。
「子宮破裂」は、ふつう「陣痛中」に起こることが多いです。
なので、子宮筋腫核出術後のお産は、「陣痛」が付かないように、あらかじめ帝王切開でお産にすることがあります(というか、多いです。必ずではありません。)

以上のバックグラウンドはお分かりいただけましたでしょうか?
で、ここで、Journal of Obstetrics and Gynaecology Researchという雑誌(日本産科婦人科学会の英文誌)上で2009-2010年に行われたやり取りを見て、腹腔鏡下子宮筋腫核出術の現状を一緒に考えてみましょう!

日本産科婦人科学会誌 53(9): N200-N203; 2001

少し古いのですが、「クリニカルカンファレンス」として2001年の日本産科婦人科学会誌に、子宮筋腫核出術の術式による比較が載っています。
リンクはこちら(PDFファイルです)

このN202ページの表3というのがそれです。
その真ん中あたりにこう書かれています。

ほんの一行ですし、「?」もついていますが、実はここが大大大問題です(だと思います)

J Obstet Gynaecol Res 35(6): 1132-1135; 2009.

論文の内容自体は症例報告です。どういった内容か、というと

というお話です。

で、この先生たちの考察が以下のごとく書いてあります。

と言った論調です。
まあ、当然の考察ですわな。

J Obstet Gynaecol Res 36(4): 922; 2010.

で、この論文に対して「ご意見」が載りました。

こちらの「ご意見」の論調は以下のようです。

という感じです。

ちなみに、この「ご意見」の題名
Laparoscopy-aided myomectomy.
これが多分ミソなんですね。
日本語では「腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術」といいます。
(僕は、Laparoscopy-assisted myomectomy;LAM(ラム)と呼んでいます。)

腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術(LAM)

以下記載内容は、本当に僕の個人的な考え方であって、一意見でしかありません。
この考えが一般的なのか?については全くもって保証しません!
真に受けるかどうかはくれぐれも自己責任ですよ。自己責任。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術(laparoscopic myomectomy;LM(エルエム))とは、子宮筋腫の核出、子宮筋の修復、子宮筋腫核の回収、すべての過程を腹腔鏡でやることを言います。
で、腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術(LAM)は、腹腔鏡+小開腹で手術をすることです。
どこまで腹腔鏡でやって、どこまで小開腹でやるかはいろいろあるようですが、「縫う」行為は原則「手」で行われると思います。
「開腹」と「腹腔鏡」の中間みたいなもんですね。
なんか、どっちつかずで受けが悪いのですが、僕は、今日現在、これが一番いいのかな?と思っています。

腹腔鏡手術のもう一つの欠点に「触覚がない」ということがあります。
触れないのですね。
でも、触るって、大事だと思うのですね。
1cmに満たないような小さな筋腫でも触るとわかる。
鉗子のみだと結構厳しいのです。
いや、腹腔鏡の達人レベルなら話は別なのかもしれませんがね。
僕みたいなヤブには到底無理。

この論文を書いた最初の先生たちみたいに、流石に「開腹でやれ」とまで言うのは、さすがに石橋を叩きすぎだと思うのですね。
で、僕の意見は、この「ご意見」を書いた先生と同じで、
「腹腔鏡でできるところは腹腔鏡、でも「縫う」のは原則『手』」
に賛成です。
傷の小ささ、痛みの少なさ、入院期間の短さももちろん大事なのですが、そればかりに気を配っていて、いざ妊娠したら子宮破裂・・・目も当てられません。

僕の周囲にも「ラパロスコピスト(腹腔鏡専門医)」がいます。
彼らに僕の意見を言うと、渋い顔をされて反論されます。
「腹腔鏡で手と同等に縫えるようにトレーニングすればいいじゃん」
「そもそも、本当に腹腔鏡の方が子宮破裂の確率が高いというエビデンスあるのか?」
・・・まあ、一論です。
いつもこの会話になって平行線です。
でも、腹腔鏡でやって、万一子宮破裂を起こされたら、絶対一生後悔すると僕は思うのです。
なので、僕は自分の患者さんには漿膜下筋腫を除いてLMはあまりお勧めしていませんし、そんな勇気もありません。

以上は僕の一意見にすぎません。盲信しないでください。
目の前の利点だけに囚われず、数年後まで見通す冷静さが重要だと思うのです。
皆さんがご希望に合った治療が受けられるよう願っております。

ご批判は、仮にいただいても結局平行線ですので、不要です。
お互い時間の無駄なので止めましょう。

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