卵巣予備能と抗ミューラー管ホルモン(AMH)

突然ですが、今、まさに今日、皆様ご自身の卵巣の中に「卵子」は何個残っていますか?
細胞の数としての卵子です。
・・・・普通わからないですよね。

では、皆さんご自身の卵巣内に残っている「卵子」は、お隣りの女性と比べるとどっちが多く残っていますか?
同級生の平均と比べて、多く残っていますか?それとも少ないですか?
仮に少なかったとしたら、3歳年上の女性の平均値と比べたらどうですか?

これが「卵巣予備能」です。

卵巣予備能という考え方

卵子(正確には卵細胞)は、その女性が、お母様のお腹の中で全てが作られきって、もうそれからは一切作られません。
つまり,おぎゃーと生まれたときにはすでに,その女性の卵巣の中にある卵細胞の数は決定されているということです。
とはいっても,その数は生まれた時で約200万個と考えられています。
女性が生涯で排卵する総卵子数はざっと400から500個ですから、実際に排卵される数を大きく上回るわけです。
予備は山ほどあるということですね。
で、皆さんが思春期を迎えたころには、この「卵子貯金」は、ざっと30万個になっているそうです。

で、ここから、毎月切り崩して使っていくわけですね。
毎月の排卵が一個だからと言って、切り崩すのも一個というわけではないですよ。
たくさんの卵子を切り崩して一気に発育させる。
そのなかで、生存競争をさせる。
弱肉強食の世界(実際食べちゃうわけではないですが)。
そして、最後に勝ち残った一個が、今月排卵の一個になっている。
(但し、この排卵する一個が最も性能がいいのかどうかは?です。「いい」と言っている人もいますが、今のところ証明はされていないと思います。)

切り崩されなかった「卵子貯金」が残りますね。
で、
今日、私の卵巣の中に、残りの「卵子貯金」何個あるんだろう?
これが、卵巣予備能です。

前出のごとく、今日の、ご自身の「卵巣予備能」(=すなわち、卵巣内に残っている卵子数(正確には卵胞数))は、普通はわからないわけです

Changらの論文1)にはこんな風に書いてあります。

Ovarian reserve would involve the counting of all follicles present in both ovaries, as is done in postmortem studies.

postmortemは「死後の」という意味です。
すなわち、正確な卵巣予備能は、死んだあと、解剖して初めてわかるものだというわけです。

つまり、生きている女性の正確な卵巣予備能は、今日でもまだわからないんですね。
(先に答えを言ってしまうと、抗ミューラー管ホルモン(AMH)をはじめとしたいかなる検査も正確な卵巣予備能(=総卵胞数)を測っているわけではありません。) 

いかに「卵巣予備能」を推測するか?

そんなわけで、直接知ることのできない「今日卵巣内に残っている卵子の数(卵巣予備能)」を、いかに他人と比べっこするか?というと、実臨床で使われているのは、次の3つが代表的だと思います。

ただし月経中のFSHは比較的容易に測定できるのは利点ですが、卵巣予備能検査としては明らかに欠点が多すぎるので、流石に最近これで卵巣予備能を論じると相手にしてもらえない感があります。

胞状卵胞数(AFC)

月経中で申し訳ないのですが、超音波を拝見すると、卵巣はこのように見えます。
で、卵巣の中に「黒いつぶつぶ」が見えるわけです。
これが「胞状卵胞」と呼ばれるものです。
この胞状卵胞の数が何個あるか?で卵巣予備能を推測しよう、というものです。
胞状卵胞数が多ければ多いほど卵巣予備能が維持されている(卵巣内の総卵子数が多い)とうわけです。
ちなみに、この図の方は、かなり良好です。

お気づきの通り、実際の卵子数を数えているわけでは無いので間接的ですね。
あくまで、

という過程の元の推定です。

抗ミューラー管ホルモン(AMH)

今やすっかり市民権を得た感のある抗ミューラー管ホルモン(AMH)ですが、これも間接的に卵巣予備能を表しているに過ぎません。
抗ミューラー管ホルモン(AMH)は、卵子が分泌しているものではなく、卵子を取り囲む「顆粒膜細胞」という細胞が分泌しています。

細かい点は省きますが、「卵子」が成熟する過程で「AMHを分泌する顆粒膜細胞」にくるまれている時期が一定期間あるのですね。
なので、

ということで、これも間接的に卵巣予備能を推定しているわけです。

実臨床上使われるシーン

僕がART修行をしていた頃、ボスは

と、しきりにおっしゃっておりました。
(それゆえ、気に入った超音波の「機械」に異常なほどに愛着をお持ちでした。)
超音波での卵巣描出能力及びその解釈力が不妊屋の臨床能力である、とのことです。
一理あると思います。

僕の修行当時は、超音波一発でその患者さんの卵巣予備能を推定し、最適な排卵誘発法を判断する(高刺激 or 低刺激、ロング or アンタゴニスト、使用するhMG量など)トレーニングを来る日も来る日も受けました。
「星飛馬」バリです。
で、この理屈がわかってくると、確かに「胞状卵胞カウント」が非常に有効であることを思い知らされます。

但し「胞状卵胞カウント」を上手に臨床応用するには、そんな感じで結構なトレーニングが必要なのも事実です。

一方、AMHは具体的に数字で出ますので、確かに客観的です。
特に患者さんにお見せすると、非常にインパクトかあるようです
人によっては、ウルウル涙を流す方もいらっしゃるぐらいです。
これは、「胞状卵胞数」を一生懸命お話ししてもなかなか得られない感触なのも確かです。

「AMHを測って、じゃあ、それを何に用いるのか?」
実はこれが重要です。

「とりあえず全員に調べちゃえ!」
・・・・まあ、それはそれで否定はしれませんが、ではそれを何に応用するのか?何のために測定するのか?ですよね。
POF(早発閉経)のスクリーニング位には役立つかもしれませんね。
直近AMHがまるで検診のごとく使われ、その臨床的意義の考察もなされないまま、ただ単にパニックに陥れられている患者さんを拝見することがあります。

「数値が年齢平均値より低かった!ギャー!」
・・・・確かにインパクトがあり、ドキッとする結果なのですが、冷静に考えてください。
低く出る確率1/2です。
平均値より「高いか低いか」ですからね。

「低AMHでも妊娠しました!奇跡です!」
「・・・・え?水を差すようで悪いんですが、それ別に奇跡じゃないと思うんですが・・・・。」
いや、POFレベルならまだしも。
だってAMHの原理考えれば、今月排卵する卵子の「質」の指標じゃあるまいし・・・・

AMHとは何なのか?卵巣予備能とは何なのか?
それを知った結果、何が情報として得られるのか?
ちゃんと考えて賢く受けるようにしましょう。

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