ではまず、「インプリント遺伝子」というのを理解したいと思います。
以下解説では、用語を理解しやすくするために多少砕けた表現をしますので、正確な定義とは異なる可能性がある点をご理解ください。
そもそものきっかけとなった実験があります。この実験は、産婦人科の世界では超有名です。
卵子と精子が受精した後(精子が卵子に侵入した後)、前核というものが形成されます。
精子は精子が持ち込んだ遺伝子の塊である前核を、卵子は卵子が持っていた遺伝子の塊である前核を作ります。
結局この2個の前核が融合して、赤ちゃんの遺伝情報を持つ核(細胞核)ができるわけです。
「核」の元だから「前核」ですね。
精子由来のものを「雄性前核」、卵子由来のものを「雌性前核」と言います。
英語でpronucleus(複数形はpronuclei)(←だったと思う。間違ってるかも(笑))なので、略してPNと呼んでいます。
そんなわけで、受精すると、精子から1個、卵子から1個で合計2個の前核が見えるわけです。
これを2PNと表現しています。
体外受精を受けてらっしゃる方でピンと来た方がいらっしゃるかもしれませんね。そう。「正常受精」の2PNです。
体外受精のステップでは「受精確認(PNチェック)」というステップがあって、この前核の数を確認しています。
(今回の話には直接関係がないのでこの話は飛ばします。)
さて、「超有名な実験」の話に戻します。
図で表すと理解しやすいので、図を書きました。
正常受精した受精卵には、精子由来の「雄性前核」(青で示しました)と卵子由来の「雌性前核」(赤で示しました)があるわけですが(図の左側の2個です)、 「この前核を置き換えたらどうなるのか?」 と発想した方がいらっしゃるそうです。 前核置換と言います。 |
卵子由来の「雌性前核」のみから出来た受精卵(図の右上)は、理論的には「46,XX」になるわけで、染色体上は正常女性核型になるはずです。
一方、精子由来の「雄性前核」のみから出来た受精卵(図の右下)は、染色体としては、25%で「46,XX」、50%で「46,XY」、25%で「46,YY」となります。
46,YYは無理としても75%の確率で、染色体上は問題なさそうな状態になるはずなわけです。
・・・とはならないんですね。
途中までは行くそうですが、どちらも途中で必ず致死に至るそうです。
そんなわけで、赤ちゃんができるためには、必ず前核の1つは精子由来、もう一つは卵子由来である必要があるわけです。
精子同士、卵子同士の前核では、染色体数的には良さそうなのに、残念ながらダメなのです。
ということは、精子由来の「雄性前核」と卵子由来の「雌性前核」は、染色体という意味では同じでも何かが違うわけですね。
何が違うのでしょうか?
それが「インプリント遺伝子」なのです。
中学生の頃を思い出して、メンデルの法則を復習してみましょう。
例は血液型。
を考えます。
ABOの血液型を決定する遺伝子は9番染色体上にあります。
ご存じの通り、染色体は2本ずつ1組ありますね。
1本は父親から、もう一本は母親からもらっています。
このAB型の子供のの9番染色体上のABO血液型を決定する遺伝子はこうなっている筈です。
青は父親からもらった9番染色体上に乗る遺伝子で、A型になる遺伝子 赤は母親からもらった9番染色体上に乗る遺伝子で、B型になる遺伝子 なので、子供はAB型になるのですね。 こんな感じでABO型の遺伝子は、父親由来の遺伝子も、母親由来の遺伝子も、2本とも「活性化」しているわけです。 |
遺伝子αは、
図の四角は「遺伝子が読まれないように邪魔をしている機構」です(これがあとでキーになってきます)。 |