AIH時のhCGはいつ打つのがいいのか?

2013年3月記

AIH自体は僕も研修医の頃から経験させていただいておりました。
これまたあまり根拠もなく、先輩方から
「AIHの前日にhCGを打って、翌日にAIHをするものだ」
といった感じで教わってまいりました。
一時期、
「hCG打って36時間後に排卵するなら、AIHの36時間前にhCG打つのがいいのでは?」
と根拠もなく思い込み、真夜中の救急外来にhCGを打ちに来てもらっていたこともありました(今思うにあまり根拠がなく、申し訳なかったです)。
今最新の「AIH時のhCGを打つタイミング」、医学論文的にはどうなっているのでしょう?
このままあやふやにしているのも気持ち悪いので調べてみよう、というのが本項の意味合いです。 

「hCG打って36時間後に排卵する」ということで、この「36時間」というのを軸にいろいろ時間を変動させて検討されているようです。

36時間前 v.s. 24時間前

この比較がやはり多いですね。
「36時間」の根拠は前述のごとく排卵とAIHのタイミングをシンクロさせたい、ということでしょう。
で、「24時間」というのは、まあ、要するに「前日」ということですね。
「36時間前」というのは、普通真夜中になり、病院・クリニックで打つのは現実的ではないわけですね。
ざっと検索してみると、この検討で3本の論文が見つかりました。

【排卵誘発】クロミフェン day3~より50~100mg/day 5日間、18mmでhCG
【結果】
24時間群:妊娠率 7.0% 出産率 4.0%
36時間群:妊娠率 15.9% 出産率 8.5%
で、各々に統計学的有意差なし(数字上は36時間の方が高めだったけどね、とも書いてある)。
【排卵誘発】クロミフェン day3~より100mg/day 5日 or CC+FSH OR FSH 18mm2個でhCG
【結果】
24時間群:妊娠率 12.1%
36時間群:妊娠率 11.0%
で、各々に有意差なし
【排卵誘発】クロミフェン day3~より50~150mg/day 5日 18mm1個でhCG
【結果】
24時間群:妊娠率 8.69%
36時間群:妊娠率 14.71%
で、各々に統計学的有意差なし
(但し、この先生達は「確かに有意差出なかったけど、それでも数字的に36時間後がオススメ!」としつこく書いてあります。)

といった感じで、3論文とも36時間前 v.s. 24時間前で、有意差は出ていないようです。
でも、(1)と(3)の論文の如く、確かに数字的には36時間前の方が多少いい傾向があるんですかね?
でもまあ、これを持って「推奨」とまでは行きませんね。
本HPでは、「どっちでもいいなら、まあ36時間前にしましょうか」レベルと解釈しておきましょう。

33時間前 v.s. 39時間前

なるほど、面白い時間設定です。
つまり「排卵前 v.s. 排卵後」と置き換えることもできるかと思います。

【排卵誘発】hMG or rFSHによるCOH
【結果】
33時間群:妊娠率 21%
39時間群:妊娠率 15%
で、各々の妊娠率に有意差なし。 

う~ん。この辺の時間で有意差の出るものはないんですね。
では、最後に、なかなか面白い試みをした論文があるので、こちらをご紹介してみたいと思います。

前日 v.s. 当日

はい。実は僕もよくやるのですが、「AIH当日にhCGを打つ」というやつです。
ただし、僕がやるのは
「そうですか、前日注射のみでのご来院無理ですか。ではAIH当日にhCGを打ちましょう」
といった感じで、ややnegativeな理由なのですが、でも確かに経験上、結構妊娠するんですね。
で、これを検討している論文がちゃんとありました。

【排卵誘発】CC(50~100) day3~5日間+FSH連日、17~18mmでhCG
【結果】
前日(24-32時間前)hCG→翌日AIH:妊娠率10.9%
AIH→AIH後当日hCG:妊娠率19.6%
で、「AIH当日にhCGを打つ群で妊娠率が有意に上昇した」とのことです。

この論文の筆者の先生のお言葉。

Postponing the hCG administration until after the IUI instead of injecting it 24-32 hours before IUI resulted in a significantly increased pregnancy rate.

とのことです。

まとめ(管理人考察)

さて、ここからは僕(管理人)はこう考える、という持論です。
本当にしつこくって申し訳ないのですが、僕は個人的にはこう考える、というだけであって、この考えが一般的なのか?については保証しません!
真に受けるかどうかは自己責任で判断して下さいね!

そういうわけで、人工授精時、
「精子注入と排卵をなるべくシンクロさせたい!」
という発想はあながち間違ってはいないようです。
ただし、統計学的には有意差が出ていないので、「36時間前」に意地でもこだわる必要はなさそうです。
「できれば36時間前、でも別に24時間前でもOKですよ」
ぐらいでしょうかね?

で、最後の(5)の論文ですが、(ここからが僕の勝手な考えで暴走です。根拠全くなし!)多分、これらの論文、hCGが早すぎなのではないでしょうかね?と思うのです。

36時間前にhCGを打つ」ということは、「精子の新鮮さ」を求めているわけですね。
では、「AIH当日にhCGを打つ」利点は?
AIH後排卵が起こるまで、精子は待ちぼうけになりますから、一見いいはずがなさそうです。
では、「排卵が遅れる」ことの利点は?
そう、多分、受け入れ側、つまり「内膜の熟化」なのではないでしょうか?
「クロミフェン周期で首席卵胞17~18mm」では、多分まだ内膜が未熟なのではないか?と思うわけです。で、
「17~18mmでAIHする」→「それからhCG打つ」→「精子は古くなるけど、まだ内膜が成熟していく」→「やっとこさ排卵する」
という構図で考えると、

だから妊娠率が上昇する、と考えるとつじつまが合う気がします。
(ただし、本当にしつこいですが、この解釈は僕の持論にすぎません。全然間違っているかもしれません。あしからず。)

精子のフレッシュさも大事、内膜の熟化も大事。
そういうことじゃないでしょうかね?

そんなわけで、僕は今後、
「子宮内膜の熟化を考慮し、卵胞の大きさ次第でhCGを打つタイミングを柔軟に変動させる」
という方針でhCGを打つタイミングを固定しないでやっていこうかと思いました。
(結局、「さじ加減」という最もいい加減な答えに至りました。みなさんにとっては最も面白くない答えで申し訳ございません。でもいいじゃないですか!この柔軟性がないと、僕らの存在価値がなくなってしまうじゃないですか!)

みなさんも是非、
「本当にこの日のhCGでいいのだろうか?」 「本当にこの日のAIHでいいのだろうか?」 と、逐一考えながら治療に臨まれてみてください。
この辺が「不妊治療」の面白い(失礼な表現ですいません)ところです。

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