復習しておきましょう。こちらで簡単には説明済です。
で、これを(下手な)図にしてみました。
卵胞は、発育すると、エストラジオール(E2)を出すのでしたね(図の緑の矢印)。
何のために出すんでしたっけ?
そうでした。
「私は今これだけの大きさなのよ!」「みんな準備してね!」
と関連組織に知らせるためでしたね。
関連組織とはどこでしたっけ?
そうでした。「脳」「子宮内膜」「子宮頚管」でした。
E2濃度により卵胞の頃合をみて
のでした。
排卵後の状況、およびホルモン状況も確認しておきましょう。
LHは水色の矢印で表現してみました。
脳下垂体からのLHサージを受けて、卵胞は排卵を起こします。
排卵が起こり卵子が飛び出していくと、卵巣には「卵胞の皮」が残ります。
この残った「卵胞の皮」が「黄体」と呼ばれる組織に変化します。
この「黄体」が「黄体ホルモン」と呼ばれるホルモンを出します。
「プロゲステロン(P4)」と呼ばれています。(エストラジオールも出します)
「黄体ホルモン」は主に「子宮内膜」に働き、内膜を着床しやすい状態に変化させます。
(ちなみに、子宮頚管にも働きます。頚管粘液はどうなるでしょうか?考えてみてください。)
「黄体」は自分で勝手に「黄体ホルモン」を出しているわけではありません。「脳」からの命令で出しています。
その命令とは「LH」です。
そう、「LH」は、卵胞には「排卵させろ!」、黄体には「黄体ホルモンを出せ」という命令になるのです。
ちなみに妊娠成立しないと、黄体はだんだんしぼんでいって「白体」というものに変わり、「黄体ホルモン」がだんだん減っていきます。
そうすると、子宮内膜が維持できなくなって崩れていきます。これが「月経」つまり生理です。
で、今回の本題「hCG」です。
human Chorionic Gonadotropin (ヒト絨毛性ゴナドトロピン) の頭文字をとってhCGです。
皆様には「妊娠反応検査薬で検出しているホルモン」でおなじみですね。
通常、大人の体は、このhCGを作ることはできません。
赤ちゃんの、将来胎盤になる組織(絨毛)のみが産生することができます。
なので、
という意味で、妊娠反応に使われています。
ところが、(当たり前ですが)赤ちゃんはママに妊娠を知らせるためにhCGを出しているわけではありません。 |
LHもhCGもどちらも黄体ホルモンを出させる能力を持っていますね。
そうなんです。LHとhCGの作用は非常に似ています。
ちなみに、同量だと、hCGはLHの約6倍強いそうです。
で、このhCGを「薬」としてLHの代わりに使うわけです。
「LHそのものを薬にすればいいじゃないか!」
その通りです。しかしながらLHが合成できたのは実は最近なのです。欧米では使われていますが、今日現在日本では未認可です。
じゃあ、hCGは簡単に作れたのか?というと、ま、そういうことになります。どうやって作っているか・・・興味のある方はググってみてください。
というわけで、hCGはLHの代わりです。
LHの仕事をhCGに肩代わりしてもらえるわけです。
LHの働きその1は「LHサージ」でした。
卵胞がちょうどいい大きさになったと「脳」が判断したら、「脳下垂体」からLHが爆発的に出て、排卵を起こす
のがLHサージでしたね。
つまり、卵胞がある程度育ったところでhCGを注射すると、まるでLHサージがかかったかのように排卵を惹起することができます。
で、タイミング療法なり人工授精の治療中でよくあるシーンですが、超音波見て、ある程度の卵胞の大きさだったとすると、
「卵胞はいい大きさです。注射打って排卵させましょう。今から36時間後に排卵するので、タイミング持ってくださいね/人工授精しましょう。」
となります。
「おー、まさに排卵する時間がドンピシャでわかるなんて素晴らしい方法だ!」
・・・・・とは考えないのが本HPの推奨です。
詳細はこの次のページ以降(「排卵惹起は必要か?(2)」)で論じますが、このhCGの安易な使用法は妊娠率を低下させている可能性があると思います。
LHは、卵胞には「排卵させろ!」、黄体には「黄体ホルモンを出せ」という命令になるのは前述の如しです。
で、hCGはLHの代わりでしたので、排卵後にhCGを使用すると黄体ホルモンを出させる効果があります。
黄体機能不全という状態に対して、黄体ホルモンを何らかの形で補おう、とすることがあります(黄体補充療法)。
この場合、黄体ホルモンそのものを薬として補う方法(黄体ホルモン補充療法)と、hCGを使って、卵巣にある黄体にホルモンを出してもらう方法(黄体賦活療法)があります 。
体外受精で排卵誘発をしている時に、卵胞が育ってきて、そこに針をさせば卵子が採れるか?というと採れないのですね。
採卵には「LHサージと同等の刺激」が絶対必要です。
このためhCG(またはスプレキュア)で排卵の刺激をします。
「え?なんで?排卵しちゃうじゃん!」
そう。もっともな疑問です。この点は、こちらの写真をご覧いただくとなぜLHサージが必要かが理解できるかと思います。
(Hormone Frontier In Gynecology 15(1), 2008より)
わかります?写真の矢印のところがだんだん外れてきています。
これです。
LHサージがかかると、排卵する前に卵子が卵胞壁から剥がれてきます(卵丘膨化)。
つまり、採卵は「LHサージがかかって卵子が卵胞壁から剥がれて浮いているけど未排卵」の卵胞に針を刺すから卵子が採れるのです。
実はさらにこの写真でもう一つ凄く特徴的な変化が起きているのわかります?
(プロは流石に指摘できないとまずいですが、一般の方には超難問だと思います。気付いたら「凄い!」。)
ということで、自然では、脳(視床下部)が「最適期」を判断してLHの大量放出(LHサージ)を起こして排卵させているのですが、これを、hCGというホルモンを注射しても代用することが出来るわけです。
さらには、GnRHアナログ(商品名:「スプレキュア」など)を点鼻することによって、自前の脳下垂体から強制的にLHを大量放出させ、あたかもLHサージが起きたかのようなホルモン状態を作ることが出来ます。
自然のLHサージにせよ、人工的な偽LHサージのGnRHアナログにせよ、LHもどきのhCG注射のせよ、結局卵胞に対して『排卵せよ』という命令を与えるものなわけです。
このような卵胞に対して『排卵せよ』という命令をまとめて、trigger(トリガー)と言います。
日本語訳、多分正式な用語は無いです。
なので、本HPでは、『排卵惹起』という日本語を用いることにしました。
以降、この排卵惹起(トリガー)が、どのような意味を持っているのかを考察してまいりたいと思います。
(排卵惹起は必要か?(2)へ続く)