精索静脈瘤の手術療法のとらえ方(1)

現在の所、精子形成障害を理論的に改善しうるのは、続発性(二次性)造精機能障害(精巣そのものの機能は本来正常だけれども、周辺環境に障害が起きているため、正常に精子が形成されない場合)のみに限られています。
例えば低ゴナドトロピン血性性腺機能低下症とか。
これは、何らかの原因で下垂体からのFSH/LHのパルス状分泌が障害された状態で、刺激がないだけで、本来の精巣機能は問題ないわけです。
だったら、問題個所、この場合だったら「FSH/LHのパルス状分泌」を何とかすればいいのでは?となるわけです。

逆にいうと、原発性造精機能障害(あるいは特発性/原因不明など)に対する治療は、ほとんど「経験的」治療で、これらの治療は今日現在かなり眉唾(no evidenceあるいはinsufficient)~せいぜい「may」レベルですね。

そんな中、「精索静脈瘤」という状態があり、これは、(場合によっては)手術で精子形成障害を改善できるかも?(全員が全員ではないかもしれないが)とされている状態です

ただし、これがまたよくわからない。
そもそも不妊じゃない人にも精索静脈瘤は認められる
続発性(二次性)造精機能障害を起こすものなんだろうけど、精索静脈瘤が何で精子形成障害を起こすのか?の理由が未だによくわかっていない

で、その原因と考えられる「精索静脈瘤」を手術すれば原因は無くなるだろう。
では、実際手術の結果、妊娠率がどうなるのか?がいろんな結果が出てくる
といった状態でした。

そんな混沌とした状態でしたが、直近、何となく方向性が見てて来たような、といった状況だと思います。
本ページでは、そんな精索静脈瘤の手術療法と、その結果のエビデンスがどのように推移してきているのか?について解説してみたいと思います。

(僕は男性不妊およびその手術を3人の泌尿器科の先生に教わったのですが、3人とも基本的には「条件が整えば(←ここがミソ)手術すべき」でした。)

精索静脈瘤とは?

精巣にも当然ながら血液の流れがあるわけです。
精巣から心臓へ戻っていくのが静脈ですね。
この静脈が拡張して「こぶ」状に累々と怒張してきたものが精索静脈瘤と呼ばれるものです。

位置的にいうと、陰嚢内、精巣のちょっと上あたりになります。
(画像をお見せしたいのですが、日本国内の法律に触れてしまうといけませんので、ご自身でググってみてください。)

細かくは、精巣からの静脈は3系統ある(内精静脈、精管静脈、外精静脈)のですが、このうち、左の内精静脈の先天性還流不全という位置付けになるかと思います。

できるのは、圧倒的にです。
これは、「ヒト」の解剖学的弱点のため、と考えられています。
(なぜ左なのか?ご興味があったらググってください。医学部の学生さんの追試の試験問題レベル位だと思います。)

両側にできることもありますが、右だけにできていたら「何かおかしい」と勘繰るべきだそうです(右だけの方は僕は見たことがありません)。
あと、基本的に、先天性還流不全と考えるので、急速に出て来た場合も「何かおかしい」と勘繰るべきだそうです。

頻度的には性成熟男性の10-15%に見られるそうです。もちろん不妊でない人たちにも普通に見られます。
一方、男性不妊患者では、原発性(いわゆる一人目不妊)で30-35%、続発性(いわゆる二人目不妊)で69-81%に認められるそうです。
これはつまり、「あったら即悪ではない」ということも言えますし、「進行性に精子所見を悪くしている可能性がある」ともいえるわけです。

(一人目の時は大丈夫だったけど、時間が経過するにしたがって所見が次第に悪くなる、だから二人目不妊時に「あれ?精子が・・・。」となると考えられるわけです。ちなみに、この状態に限らず「二人目不妊」というのは、このように「進行性の病態の有無」に特に気を配って考えていく必要があるのが特徴です。)

精索静脈瘤の手術療法

精索静脈瘤を手術するとすると、基本的な考え方は何らかの方法で静脈の流れを止める、という発想で行われます。
血管内を塞栓させる、という手技も行われているようですが、実際には手術療法の方が盛んに行われています。

静脈は末梢に行けばいくほど分岐していますので、末梢であればある程血管は細く、しばる本数も多くなります。
実際に陰嚢を開けて手術することも可能は可能ですが、経験のある先生曰く
「埒が明かない」
との感想をおっしゃっておりました。
動脈と静脈の区別が非常に困難とのことです。

では中枢へ行けばどうか?ということで「腹腔鏡下高位結紮術」というのも行われています。これは、現在でも広く行われている手技です。
欠点として挙げられているのが、全身麻酔で行われることが多いこと、侵襲が「低位結紮術」と比べるとやや大きいか?ということ、やや再発率が高いのでは?ということなどがよく上げられているようです。

で、直近主流となりつつあるのが「低位結紮術」と言って、足の付け根のちょっと上辺りで結紮する方法です。
「低位結紮術」は、高位に比べると侵襲が軽度とされ、再発率が低いとされています(外精静脈を縛る/縛らないにもよるようですが)。
但し、この高さで勝負するためには、動脈/静脈/リンパ管/神経を鑑別するのに顕微鏡が使われるようになってきています。
よって、直近、「顕微鏡下低位結紮術」という術式が主流になりつつあるかと思います。

顕微鏡下低位結紮術の実際

【管理人注】
以降、リンク先は真面目な医学的内容を扱っているページです(PubMedとYouTube)。
また、リンク先には実際の手術写真(動画)があります。
僕らは(当たり前ですが)平気ですが、一般の方にはもしかしたら衝撃的なものなのかもしれません。
リンクを踏まれる方は、その点十分ご理解ください(自己責任でお願いします)。


では、実際の「顕微鏡下低位結紮術」がどんな感じか?について論じた医学論文がこちら。

です。
解説の図が左下の方に3枚付いていて、各々、マウスを載せると拡大されると思います。

一番左が切開する場所ですね。

で、真ん中が術中写真です。
図の12時→8時方向に白いものが通してありますよね。
これは、精索の下に通してあります。
つまり精索が”持ち上げてある”わけですね。

で、一番右が模式図です。
Vas deferensが精管
Lymphaticsがリンパ管
Arteryが動脈
Nervesが神経
です。
つまり、精管は当たり前ですが、リンパ管、動脈、神経を温存して、静脈だけを結紮切断するんですよ、ということを言いたいわけです。

で、この論文を書いた先生は、この論文の内容そのものをYou Tubeに投稿してあります。
えっと、こちら。

で、僕が教わったやり方も大体同じです。
1:52ごろからは本当の手術動画になりますので、本当に見たくない方は注意してくださいね!

ちなみにこの高さでは、大体10~多い時30本位の静脈を結紮することになります(人によって違います)。

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